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2012.6.17
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神緒のべるず 第1話 ミィちゃんを探せ -1-



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「私たちがここに引っ越してから、もう1ヶ月か・・・」
私、神緒 明日香は事務所の2階の窓から外の景色を眺めながら思った。もう年の暮れ。外は雪でも降りそうな雰囲気だ。

1ヶ月前まで、私と、妹の里桜は、ある離島の大富豪の下で、家事手伝いというか、秘書というか、様々なお仕事をしていた。
そのときの制服が、都会で大人気なメイドファッションに沿ったものだったので、私たちは自分たちの仕事のことを「メイド」と呼び、大富豪のことを「ご主人様」と呼んでいたが・・・まあそれはいいだろう。

1ヶ月前、ご主人様が、仕事で長期間海外へ行き、家が長い間、空くことになった。私たちの仕事としては、ご主人様に同行して身の回りのお世話をするか、もしくは家に残って掃除や警備などのメンテナンスをするところだ。しかし、ご主人様としては同行者は不要のようだし、自宅に2人きりで残されるのも寂しいと思われたのだろう。

「私の親戚でね、都心からちょっと離れたところで、探偵業なんてもんをやっている者がいるんだが、手伝いが欲しいと言っていてね。
 2人はしばらくの間、そいつの所に行って、手伝ってきてくれるか? 都会ってものを知る良い機会にもなるだろうから、勉強も兼ねて…ね」

そういうわけで、私たちは今、メイド服を着たまま、「探偵助手」兼「都会見学」をしている。
ただ、都会見学にもそろそろ飽きてきたため、お手伝いをすることのない時間は、こうして窓から外を眺めてお茶をすすっている。なんとも平和的だ。

ちなみに探偵の光大朗さんは、クライアントに呼び出されて夕方くらいまでお出かけとのことだ。妹の里桜は、玄関の掃除をしているところだろう。

と、「トッ、トッ、トッ」と、階段を昇ってくる音がしてくる。2人分の足音だ。里桜がお客さんでも連れてきたんだろうか。

扉が開き、里桜が入ってきた。

「ちょっとここで待っててね」

と里桜が後ろにいる人に話して、扉を閉めた。里桜がそばまで寄ってきて、

「姉さん、姉さん、お客さんだよ。なんだか、飼い猫がいなくなっちゃったみたいなの」

いちおう、この探偵事務所は「よろず相談受け付けます」ということになっていて、法律がかかわってくる難しい事件でも、人探しでもペット探しでも請け負うことになっている。そういう相談事項だろう。でも、肝心の探偵の光大朗さんが不在である。

「でも、光大朗さんが居ないから、お仕事をお引き受けしても良いかどうか、わからないわね」
「そう、そこなんだけどね…。マミちゃん、入ってきていいよ」

扉がトントン、と軽く2回ノックされて、「失礼します」と女の子が入ってきた。

「あ、あ、あの…、その…」

マミちゃんと呼ばれた女の子は、扉の前でモジモジしている。と、そこで里桜が私に耳打ちをした。

「実はね、この女の子、所持金が300円くらいしかないらしくて。だから、私たちがちゃちゃーっと解決しちゃおうと思うんだ」
「ちょ、ちょっと里桜! 光大朗さんから、お金をもらえそうもないお仕事は絶対引き受けるな!ってあれほど言われてるじゃない。お人よしだけで探偵業をやってはいけないって」

そうなのだ。実は光大朗さん自身がかなりの「お人よし」であり、お金を取れない仕事ばかりを引き受けてしまったせいで、事務所の金庫は空に近い。正式な助手も雇えなくて、親戚であるご主人様にお手伝いの派遣をお願いするしかなかったのだ。ちなみに私たちのお給料は、ご主人様から払われている。

「そ、そうなんだけどさ。あの女の子を見てたら・・・断るのもなんだし。あたし猫とか見るのすごく好きなんだよね。だからさ・・・」
「わかりました。とりあえずお話だけでも聞いてみましょ」

私はマミちゃんの方へ向き、

「それでは、お話をお伺いしますので、どうぞそちらの椅子におかけください」

と、テーブルの前に椅子に座ってもらうことにした。

「え、えっと、ありがとうございます。そ、そ、その、私のミィちゃんが、おとといから居なくなっちゃったんです」
「ちょっと落ち着いて、順序よく話してね」

こういうことらしい。
ペットのミィちゃんがおとといから姿を見せなくなった。ポスターを貼って情報を募ろうにも、あいにく写真がない。困っていたところ、ペット探しも請け負いますという看板を見かけたため、その前で掃除をしていた里桜に話しかけた。

「なるほど。で、ミィちゃんの特徴は?」
「はい、黒と茶色の点々があって、最近ではよくコタツの中で丸くなって寝ていたんですよ」
「ふむふむ。それで、いなくなっちゃったとしたら、どこへ行ったか、見当のつく場所はある?」
「そうですね…。藪(やぶ)の中とか、狭いところとか暗いところとかに、よく入ろうとするのをみたことがあります」

そうか…。これは難しいかもしれない。
だいたい猫ってのは、その地区のいろんな家で「同時に」飼われていることが多い。マミちゃん以外の家のコタツで丸くなっていることも多いだろう。そうでなくても、暗くて狭い場所なんてあちこちにあるし。

そう思っていると、里桜が

「よーし、それじゃあ早速、ミィちゃん探しを始めよう。マミちゃんの家は、ここからそんなに遠くないんだよね。ここらへんの藪とか暗いところとか、とにかくしらみつぶしに探してみようよ」

と言い出した。里桜はやる気満々らしい。

「そうね。私も探すね」

コートを着て外に出ることにする。外はかなり寒い。暗くならないうちに探して、早々に引き上げたほうが良いだろう。
いや、夕方には光大朗さんが帰ってきてしまうから、それまでになんとか解決しないといけないかな。


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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