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2012.6.17
Ayacy's HP


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神緒のべるず 第2話 ガム工場見学ツアー -1-



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リノリウムの床をキュッキュッと鳴らす3人の足音が、10メートルはありそうな広い廊下に響いている。

「あ! 西園寺さん、あれは何ですかー?」

前を歩いている里桜が能天気そうに、さらに前を歩く西園寺さんに尋ねる。

「はい。あれは当社がこれまでに製造してきたガムですわ。実際に売り出された製品もあれば、試作しただけで終わってしまったものもあります。試食もできますが、お試しになるかしら?」
「食べますー。やったー!」
「ちょっと、里桜。私たちの任務を忘れたわけではないでしょうね。私たちは、ここに潜入調査しているんだからね」
「わかってる、わかってるって。敵を欺くには、まずは味方からって」
「それ、意味わかっていて言っているのよね…」

私たち姉妹がどうしてこんなところでガム工場見学ツアーに参加しているのかということについて説明するには、少し時間をさかのぼって解説しなければならないだろう。
3日ほど前のことである。



私たち姉妹が手伝いをしている探偵事務所に、ある依頼が飛び込んできた。
「ちょっと明日香、来てくれるか」
「はい、今行きます」

探偵所所長の光大朗さんから呼ばれ、事情の説明を受ける。

「リネオンって会社、知ってるか?」
「えぇ、あの化粧品とか石鹸とか作っているところですよね」
「そうだ。あと食品関係もやっているようなんだが、今回は、その食品関係の関連の仕事だ」
「…と、いいますと?」
「君と里桜の2人に、潜入調査をやってきてもらいたい」

つまりはこういうことだ。
リネオンという会社で、最近、ガム工場の見学ツアーをすることができるようになった。
そこで、ライバル会社が敵情視察のために社員を送り込んだのだが、見学ツアーに行ったきり戻ってこない。
本来であれば警察へ捜索願を出すべきだろうが、敵情視察ということもあり、あまり表沙汰にしたくない。
そこで、我が探偵事務所へ調査依頼が来たというわけだ。クライアントからは、なるべく大ごとにしてはならず、とくに警察に知られるようなことは絶対にないように、とのことだった。

「では、早速、見学ツアーを申し込んじゃいますね」
そう言って、さっそく工場見学の申し込みのために電話をかける。
「はい、見学の申し込みを。2名で。神緒明日香と、里桜と申します」

潜入調査当日。
私と妹の里桜の2人は、リネオン社のガム工場へ向かった。

ポケットにはボールペンに偽装した音声発信機が1つ。
光大朗さんの話では、このボールペンの音声を聞くために待機している助っ人を用意していて、ピンチと思われる状況になったら即座に駆けつけてくれるのだという。

受付に行き、予約の名前を伝える。

「恐れ入りますが、セキュリティ上の理由により、カメラつき携帯電話等は一時的にお預かりさせていただきます」

これは予想の範囲内だ。音声発信機つきのボールペンまでは気づかなかったようだ。

受付を済ませると、会議室に通された。どうやら今日の参加者は、私と里桜の2人だけらしい。

しばらく待つと、コンコン、と、ノックの音が聞こえ、会議室のドアが開いた。
30代くらいの女性が入ってくる。髪にはソバージュがかかっていて、高級そうなメガネ、口紅は真っ赤。
真っ白な白衣の下は真っ赤なセーターという、なかなかハデな格好だ。

「本日はリネオン株式会社ガム製造工場へ、ようこそいらっしゃいました。
 私、当工場の『味の研究所』主任研究員の西園寺麗華(さいおんじ れいか)と申します。
 どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。
 突然の申し込みなのに、対応してくださってありがとうございます。」
「では、早速ですが、当工場をご案内いたしますわ」

西園寺さんに付いて、会議室を出る。
今のところ、怪しげな様子は全くないようだが、用心するに越したことはないだろう。

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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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