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2021.1.12
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神緒のべるず 第2話 ガム工場見学ツアー -5-



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「大丈夫よ。全部みねうちだから」
「マシンガンに、みねも何もないでしょ!」

私と睦がボケだかツッコミだか何だかわからない会話をしていると、すっかり混乱している西園寺さんが叫ぶ。

「あんた、何者なのよ?」
「正義のヒロインよ。見てわからない?」
「は?」
「まぁ、そうか。世間では、悪い妖怪退治のスペシャリストとして通っているんだけどね。まぁいいわ。観念しなさい」
「な、なんなのよ!」

西園寺さんは、追い詰められた悪の首領のような顔をして叫んでいる。
対して、睦は落ち着いた口調だ。

「この武器はね。対妖怪専門の武器なんでね。人間相手だと、体にはキズは付けないんだけど、ココロの方がどうにかなっちゃうかもしれないわね」

睦は銃口を西園寺さんに向ける。

「チェックメイトよ」

しかし、西園寺さんはニヤリと笑う。

「まだまだよ。いでよ!ガムスライムたち!」

壁についているボタンを押す。
すると、天井から、大量の緑色の謎生物が落ちてきた。まさしくスライムだ。

「こいつらはね。私の研究の過程で生まれた、いわば失敗作なんだけど、こうして意思を持って襲い掛かることができるのよ。創造者である私の命令には絶対に従う。あなたも、この数を相手にすることはできないでしょ。ほら、あなたこそ、観念しなさいな」

スライムたちが、睦のほうにズリズリと近寄る。
睦は余裕な表情を崩していないようだ。

「うわぁ、気持ちわるっ! っていか趣味悪っ。おばさんの趣味、ひどすぎだよ」
「おばさん言うなぁっ!」
「おばさんの相手も、そろそろ疲れたかな。ここらへんで一気にいっちゃうよ」

睦は懐から一枚の青い札を取り出し、頭上に掲げる。

「大地の精霊達よ! 我に仇なすものに炎の裁きを!」

青い札が、大量の青い炎に変化し、西園寺さんとスライムたちに襲い掛かる。

「な、なんてことなの。ガムスライムたちが全滅だなんて!
 って、アチッ! アチッ!」

白衣に青い炎が引火し、西園寺さんが逃げ回る。

「キィィィ〜! お前たち! 次こそはこうは行かないわよ! おぼえてらっしゃい!」

まるで悪役みたいなセリフを残して、裏口から逃げていった。
私は睦に尋ねる。

「後は追わないの?」
「まぁ、去るものは追わず、よ。あいつを捕まえろとまでは、指示されていないわ」
「そうね。それよりは、たぶん、あの壁に縛り付けられている男の人かしら、
 あの人を助けたほうがよさそうね」

睦は、壁に縛り付けられていた私と、里桜と、男の人を解放してくれた。
男の人が、睦にお礼を述べている。

「ありがとうございました。これでようやく、まともな飯を食べられる。5日間、ガム漬けだったものですから」

どうやらその男の人が、例のライバル会社の社員ということらしい。
同じ職種であり、同じく新作ガムを作り出す志を持っていたということもあって、話も合い、積極的に感想を述べてしまったため、こうしてつかまってしまったのだろう。

さて、これで一件落着かしらね。

と思いきや、耳を澄ますと、外からピーポーピーポーと、特徴的なサイレンが聞こえてきた。

「あ、やばっ!」

ガラスの割れる音などを聞いた地域住民の皆様が警察に通報してくれたのだろう。
焦っているのは睦である。誰がどう見ても、この惨状とマシンガン状の武器を持つ睦を見れば、睦が重要参考人として警察のお世話になることは間違いない。

「というわけで、これで失礼するわ。そこのあなた! 今見たこと、聞いたこと、誰にもしゃべっちゃだめよ。
 それから明日香! あの所長さんに伝えなさい。こんなバリバリでアクションな展開なんて契約外だから、あとできっちり追加請求するからねって。それじゃ!」

それだけ言い残すと、睦は裏口から逃げていった。
無事に逃げ延びてください…。



その後。
警察の事情聴取は受けるものの、私たちは被害者だったので、早々に解放された。
睦が工場でマシンガンをぶっぱなしていたわけだが、対妖怪用の実弾が残っているわけがないので、さほど大きい問題にはならなかったようだ。

問題なのは、今回のクライアントからの報酬。
結果的に警察沙汰になってしまったことをネチネチ責められ、報酬は半分に減額されてしまったそうだ。

加えて、睦から「青い札使用料」+「想定外のアクション料」ということで、「おしゃれな喫茶店でビッグパフェ」+「遊園地ご招待1回」を追加請求されたようで、けっこう痛手なようだ。

追加請求については、また別の機会に触れることにしよう。
今はとにかく、ガムの食べすぎで口が甘いのを忘れたい…。



-おしまい-

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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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