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2012.6.17
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神緒のべるず 第4話 温泉探偵 -2-



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温泉から出て部屋で一息ついていると、窓の外で雪かきをしている男性が見えた。
寒い中、大変だなぁと思って見ていると、

「あれが例の従業員の丈(じょう)さんだ。もちろん、実名かどうかはわからない。こんな秘境の宿で、あの歳で働こうっていうんだ。素性と共に本名を隠していても、不思議ではないだろう。」

すぐ後ろに光大朗さんが立っていた。

「この温泉宿の他の従業員も、あの男の過去を探ろうと、色々とやってきたらしい。
 ただ、なにをやろうと、頑なに過去については口を開こうとしなかったそうだ。それで、ますます怪しくなったらしい」
「確かに、何か影がありそうな方ですね」
「奥さんと子どもを捨てて逃げてきたとか?」

「とりあえず作戦を立てようと思う。もう少ししたら料理が運ばれてくるし、夕食を食べながら作戦を立てようと思うが、どうだろう?」
「「意義なーし!」」

そんなわけで、私たちは夕食を食べながら作戦会議を立てることになった。

今日の夕食は、海の幸スペシャル。
鯛の尾頭付きだ。

光大朗さんが小声で言う。

「ちなみに、うちのクライアントの話だとな。ここは注文すれば、女体盛りのサービスもやってくれるらしいぞ」

にょ、女体盛りだなんて…。思わずポッと赤くなる。

「そ、それより。早く作戦を立てませんと。5日間なんて、あっという間なんですから」
「そうだな。まずは作戦なんだけどな…」



翌日。
昨日の夜は、夢も見ないくらいぐっすりと眠った。
都会ではなかなか味わえない雰囲気に、身も心もリラックスできたようだ。

朝食は、ご飯・生卵・海苔・アジの開き・豆腐の味噌汁と、オーソドックスな日本の朝ご飯だ。
最近はパン食が多かったし、時にはカップラーメンだけなんてこともあったから、心が洗われるようだ。

さて、作戦決行である。
とは言っても、夕方から作戦決行なので、それまで周囲の街を散策したり、温泉に入ったりして時間を潰した。

あとで「姉さん、温泉で独り言を言ってたよ」なんて言われたけど、気持ちいいんだからしょうがないじゃない。

夕方になった。
私たちは、宿泊部屋の押し入れの中で息を潜めている。

今頃、光大朗さんが雪の中で倒れたふりをしていることだろう。
丈さんがそれを見つけて助け、「あなたはいい人だ、ぜひお礼をしたい」と部屋に連れてきて酒を飲ませて過去の話を引き出す、という作戦だ。
光大朗さんは、かなりの「聞き上手」であるため、相手から過去の話を引き出すのは得意なのだ。

入り口のドアが開く音がして、2人分の足跡が聞こえてきた。
光大朗さんと、もう一人は男性のようだ。うまいこと、丈さんを連れてくることができたらしい。

2人はすでにうち解けたように談笑をしている。さすがの会話力だ。
あらかじめ用意した酒を注いで飲ませ、また光大朗さんも注がせて飲ませ、会話を弾ませている。

「俺はなぁ。子どもの頃から探偵小説を読むのが好きでなぁ。昔っから、大人になったら探偵になってやるって思ってたのさ。
 金田一少年の事件簿とか、名探偵コナンとかさ。
 丈さんはどうなんだい? 子どもの頃からなりたかったものとか、あったのかい?」

「私ですか。私は夢とか持ったことは、あまりなかったもので…。
 全くお恥ずかしい。」

「いやいや、そんなことはないさ。丈さんは、昔からこの旅館で働いているんかい?」

「いえ、そういうわけではありませんが…、それより、お客さん、飲み過ぎではありませんか?」

なかなか苦労しているようだ。
仮に光大朗さんが飲み過ぎで倒れても、その後の様子を私たちがここで監視することにしている。2人の会話は聞き逃さない。

4〜50分くらい話していただろうか。
突然、ぷっつりと会話がとぎれてしまった。

「ほらほら、お客さん。こんなところで寝てしまっては風邪を引きますよ。
 まったく…」

丈さんの声が聞こえる。どうやら、光大朗さんは飲み過ぎでダウンしてしまったらしい。
光大朗さんのトークもここまでか。
ここからは、丈さんの独り言や仕草から、どこまで過去の経歴を探れるか…私たちの力量次第だ。

と思っていたら…

「押し入れの中に隠れているお客さん、出てきなさい。
 この方を介抱するのを手伝ってくれ」

バ、バレてる?
押し入れの中では物音一つ立てなかったはず。この従業員さん、ただ者じゃない。

私たちは押し入れから這い出す。

「どういうつもりかわかりませんが…。
 あまり、無理はなさらないほうがいい」

丈さんはそう言うと、光大朗さんの介抱を私たちに任せて、部屋から出て行こうとする。
私は慌てて呼び止める。

「あ、あの…。」
「なんですか?」
「すいません。押し入れの中に隠れちゃったりして」
「いいんですよ。私も気にしてませんから。ただ、この時期に押し入れの中は寒いでしょう。無理はなさらないことです」

というと、丈さんは部屋から出て行った。
私は丈さんを見送る。

奥から里桜の叫び声が聞こえる。
「ね、姉さん助けて。光大朗さん、あの、その、…重い…。
 う、うわ。口を近づけんな! 姉さん!早く! 貞操の危機よぉぉぉ〜〜〜〜!!」

とりあえず、里桜を貞操の危機から助けに行くとするか……。


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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