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2021.1.12
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神緒のべるず 第5話 航時見聞録 -4-



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「昼は普通の商人、しかし夜は、さらったおなごを次々にバテレンの国に売りさばく悪商人。
 越後屋よ。お主も、相当のワルよのぉ〜」
「いいえ、いいえ、お代官様ほどではございませんて。」
「「グハ、グハ、グハハハハハハハ…」」

私が連れて行かれた部屋では、いかにも悪人顔をした代官と、目つきの鋭い小太りの商人が、いかにも悪そうな会話をしながら酒を酌み交わしていた。外はもう暗くなってしまっているようだ。
しばらくすると、商人が私のほうに向かって怒鳴る。

「おい、そこの女! 早くお代官様に酌をしないか!」

後ろにいた部下が、私の髪の毛をつかんで代官の前に連れてくる。
商人が私の手に無理やり徳利(とっくり)を握らせる。

商人をキッと睨み付けつつ、代官に酌をする。
いちおう、メイドの作法として一通りのことは学んでおこうと、お酌の仕方はマスターしているが……、まさかこんなところで役に立つだなんて。

「ところで…!」
商人が私のほうをいやらしい目つきで見ながら言う。

「お代官様。バテレンの国におなごどもを売りさばく前に、どうです? 一人くらい…、お味見など」
「おお、そうかそうか! お味見か! そうじゃのぉ!」

神緒のべるず 第5話 航時見聞録 挿絵代官は「グハハハハ」と気持ち悪い笑い声を出しながら、ゆっくりと私に近づいてくる。
私が後ずさると、むしろ面白がって近づいてくる。
背中が壁に付く。
ヤバイ。絶体絶命のピンチだ。
代官の手が私の顔に触れる。
私が嫌がって顔を背けると。


「おぬしらの悪事も、そこまでじゃ」
どこからともなく、声が響いてくる。

商人がうろたえた表情を見せ、代官が「何者だ!」と叫ぶ。
商人がふすまを開けると…

…そこには、おるるが立っていた。

商人が「何だお前は!」と叫ぶ。
代官が怪訝な顔をしながら、おるるの方を見ている。

「おぬし、まさか、わらわの顔を見忘れたわけではあるまいの?」

代官はハッとした表情を浮かべる。

「ま、まさか、姫様?」

おるるがニヤリと笑う。代官は外へ出て土下座する。商人はわけもわからず、とりあえず代官へ従う。
それを見たおるるは、

「おぬし達の悪行の数々。到底許せるものではない。いさぎよく、腹を切れぃ!」

と言った。しかし代官は「グハハハ」と笑い出す。

「このような場所に姫様が来ようはずがない!
 姫様を語る偽者ぞ! みなのもの、であえ! であえぇぇぇい!」

ダダダダダ。
たくさんの侍が集まってくる。

「こやつは姫様を語る偽者。叩き切れい!」

侍たちがいっせいにおるるに襲い掛かる。

「ふむ。仕方のない奴らじゃの」

おるるは懐から扇子を1つ取り出すと、その扇子で剣を弾いて相手の頭を叩く。
それをすばやい動きでこなし、周囲の侍を次々昏倒させていく。

それを見た他の侍がたじろぐ。
そのスキに、おるるが懐から青い札を取り出し、何やらすばやく詠唱している。

すると、周囲に青白い光が飛び散り、侍たちが一斉に倒れる。
どうやら全員気を失っているようだ。

そのまま、おるるは商人のところに近づく。
商人は、いちおう刀を抜いて構えているが、及び腰だ。
「ひぃぃぃぃぃぃ」と情けない声が響く。

おるるが扇子で刀を弾き、頭を叩くと商人は白目をむいて倒れた。
あの扇子は、鉄か何かでできているんだろうか。

次におるるは、私と代官のいる方へやってくる。
おるるは私の方を見てニヤリと笑うと

「助けに来てやったぞ」

と言った。
代官は刀を抜くと、私の首筋に突きつける。

「そ、それ以上近づいてみろ! こ、この女の命はないぞ!」
「おっと、これは面倒なことになったようじゃの。」

おるるは、なにやら思案しているようだ。そして、

「そうじゃな。明日香といったか? どうする? やりたいようにやってしまってもよいぞ。あとはわらわが後片付けをしておくゆえな」

それを聞いて、私はふぅっと息を吐く。
「そう。それなら、お言葉に甘えようかしら」

そういうと、私は刀を上からつかんで固定し、代官のみぞおちに一発、強烈なパンチを食らわせる。
代官は「そんなバカな…」といった表情で私を見上げながら、気絶した。




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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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