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2012.6.17
Ayacy's HP


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神緒のべるず 第6話 ベストをつくせ -2-



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いよいよ、その子がやってくる日が来た。
午後3時5分、指定時刻からちょっと遅れて、ドアが「トントン」と叩かれる音がする。

「あれ? 呼び鈴が見つからなかったのかな?」
「はいは〜い、今開けま〜す」

里桜がドアを開けに行く。

「どうぞ、どうぞ、いらっしゃい」

ドアの外には、紺色の服に白いエプロンと、たしかにメイド服っぽい格好をした女の子が立っている。
まだ幼さを残した少女で、頭には赤くて丸い髪飾りを2つ着けていて、それで長いツインテールが作られている。
手には大きな手提げ袋が提げられており、おそらく日用品や着替えが入っているのだろう。

里桜が応接用のテーブルのある場所まで案内し、そこへ私と光大朗さんも集まる。

「は、は、はじめまして…リアンといいます。14歳です」

リアンと名乗ったその少女は、恥ずかしそうに自己紹介をしてから、深々と頭を下げる。
ちなみに、事前に届いている手紙により、その少女にはあれこれ詮索するなとクギをさされており、こちらから深い話を聞くことはできない。

まずは光大朗さんが自己紹介をする。

「おう。よろしく。俺はこの探偵事務所の所長をやっている宮本光大朗だ。まあ、探偵事務所なんてのは名ばかりで、今では『なんでも屋』になっちまっているが…よろしくな。君の面倒は、主にこの2人が見ることになるだろう」

光大朗さんが私の方を見るので、自己紹介を引き継ぐ。

「はい。私は神緒明日香です。で、こっちが妹の里桜。しばらくの間…どれくらいになるかはわからないけど…よろしくね」
「よろしくね〜」

里桜が語尾だけ被らせる。

「は、はい。よろしくお願いします…」

リアンは再び頭を深々と下げる。

「それじゃあ、この事務所の中を案内するね」

妹のような存在ができたことがうれしかったのだろう。里桜が早速、お姉さん気取りでリアンに案内を始める。
リアンも、素直に従ってついて行く。
そんなほほえましい光景に、私は思わず笑みがこぼれる。光大朗さんもそれを見て、とりあえず大丈夫そうだと納得すると、私に「あとはよろしく」と視線を投げかけて、そのまま外に出て行った。たしか、次のクライアントに話を聞きに行くとか言っていたっけな。

しばらくすると、案内を終えた里桜とリアンが戻ってきた。
里桜はやたらと上機嫌にしている反面、リアンはまだまだ緊張が抜けていない様子だ。

里桜が私に尋ねてくる。
「姉さん、あのね。弟子入りする…ってところまではいいんだけど、あたしは師匠として、何を教えたらいいのかな」

師匠って表現にプッと吹き出しつつ、

「師匠ね。そうね…。そういえば、私もそこは考えていなかったわね…」

私は少し思考を巡らせる。
うーん、本人に聞いてみるのが一番だろうか。

「リアンは、何を教わりたい? ご主人様から、これを教わって来てくれって、言われていることはある?」
「そ、そうですね…。わたしのご主人様からは、とにかく行って学んで来いとしか言われませんでした。行って、何かを感じてこい、と。なので、わたしにもわからなくて…。ごめんなさい」

リアンは申し訳なさそうに下を向く。

「あ、別に責めているわけじゃないのよ。ただ、何かヒントになるようなことがあればなあ、って思っただけで」

すると、リアンの表情がパッと明るくなる。

「そうだ。当家に伝わるメイドマニュアルがあるんです。これを見てみましょうか」

リアンが手提げ袋をガサゴソと探る。中から一冊の、ちょっと古めのハードカバーの本が出てきた。

「これによれば、メイドとして最低限身につけておかなければならないこととして、色々書いてありますね…。買い物、料理、掃除、ベッドメイキング、よとぎ、洗濯、介助、……あの、すいません、よとぎって何ですか?」

里桜が「さぁ?」といった表情で一緒に悩んでいる。

私は右手で頭を抱えつつ、左手で「その本をしまえ」とジェスチャーする。

「まぁ、あれだわ。今回はその本はあまりアテにしないことにしましょう。とりあえず、そろそろ夕飯の買い物をしないといけない時間だわ。光大朗さんは……いないから、私たちで夕食を何にするか決めましょう。里桜…じゃなくて師匠は、何が食べたい?」

「あたし、今日はカレーが食べたい!」

里桜が元気よく答える。

「わかった。リアンは、カレーは作れるかしら?」

私がリアンに聞いてみると、

「はい、たぶん…。以前に何度か作ったことがありますので」

それで、私の考えが決まる。

「よし、それじゃあ、これからみんなでカレーの材料を買いに行きましょう。それで料理する。リアンが主導でね。リアンの腕前を試してみたいと思うの」

「わ、わかりました。自信はあんまりないですが…やってみます!」

と、ふとリアンの視線が私の後ろに行った。

「あ、虫…」

そうね。もう春だし、虫とかも出てきている季節よね…と思って視線の先を向こうとしたら、里桜が「ヒィーッ!」と声を上げた。里桜の方を見てみると、里桜が目を丸く驚いている。
リアンは里桜の声を聞いたためか、「しまった!」という表情をしている。

里桜とリアンの視線の先を見てみると、そこには黒く焦げた物体が……たぶんあそこには、観葉植物がおいてあったと思うんだけど……それが無くなっていた。

リアンが慌てて、

「す、すいません。私ちょっと、手を洗ってきます」

といって、洗面所へ走っていった。

私は里桜に聞いてみる。

「ねぇ、何があったの?」
「ね、姉さん見てなかったの? 観葉植物のところに、カマドウマがいたんだけど……、リアンちゃんの目から! 目から! ……ビームかな? あれはビームだよ! 目からビームが出たんだよ!」

一瞬、目をそらしたスキに起きたことのようだけど、何か超常現象が起きたようだ。
あのリアンって子といい、あの手紙といい、何か隠し事がありそうな感じだ。



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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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