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2014.11.2
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神緒のべるず 第6話 ベストをつくせ -4-



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朝になった。
リアンは、昨日はだいぶ疲れたようで、ぐっすり眠れたようだ。

私が朝の掃除をしていると、リアンが「おはようございま〜す」と目をこすりながら出てきた。
手には、抱き枕と思われる、大きなうさぎのぬいぐるみを持っている。

私はさっそく、今日の作業について、リアンに告げる。
「今日は荷物を受け取りに行く仕事があるんだけど、あなたも一緒に来る?」
「はい、行きます」
リアンは即答した。

昨日とは違い、リアンはモジモジとした態度を見せなくなったような気がする。
試験問題まで作って教えた甲斐があったかな。



今日は町内にある家から、宅配業者には頼めないような大切な荷物を受け取り、運ぶ仕事が入っている。
里桜が事務所に留守番をしていて、私とリアンが、その荷物を取りに行く。

私は、隣を歩くリアンに話しかける。

「ねぇ、今日のお夕飯、何がいいかしら?」
「そうですね…。わたし、ここに来たら一度食べてみたいと思っていたものがあるのですが…。いいでしょうか?」
「なにかしら?」
「お寿司を、食べてみたいんです」
「あら。お寿司を食べたことなかったんだ」

そんな雑談をしていると、リアンが「あっ」と言って前方を指出す。
およそ10メートル前方の交差点のところで、足をけがしているらしい小犬がうずくまっているのが見える。

「小犬みたいね…」

と、ふと横を見ると、トラックがかなりのスピードでその交差点に走ってきている。

「ちょっ、あれっ…、ひかれちゃう…」

トラックはスピードを上げている。運転手の目には、小犬が見えていないようだ。
私は慌てるが、走ったところで間に合う距離ではない。

私はあきらめかけて横を見ると…リアンがなにやら、うつむいて、ぶつぶつとつぶやいている。

「ベストをつくせ…、ベストをつくせ…」

ふと言葉がやんだかと思うと、リアンは前をにらんだ。
そして一瞬の跳躍の後、トラックにひかれる直前の小犬を抱え、交差点の向こう側に立っていた。

神緒のべるず 第6話 ベストをつくせ 挿絵あまりに意外な出来事に、何が起きたのか、すぐには理解できなかった。が、どうやらリアンがものすごい速度で走って、小犬を救い出したらしい。

とりあえず私はリアンの立っているところに駆け寄る。
リアンは、

「よかった〜。よかった〜」

と小犬をなでながら安堵している。そして私の方を見て、ニッコリ笑った。
なんだか異常事態が起きたようだが、リアンはがんばったようだ。

私は、

「よくがんばったわね」

と声をかける。するとリアンは、

「今ようやくわかりました。ベストをつくすって、気持ちいいんですね」
「そうね。ただ…」

周囲がザワザワし始めている。私が周りを見回すと、何があったんだ?と周囲の人たちが集まり始めた。
約10メートルの距離を一瞬で跳躍しましたなんて、理解の範疇を超える出来事を説明するのは難しそうだ。

「ここにはあまり長居できそうもないわね。とりあえず、用事を済ませちゃいましょうか」
「はい!」

リアンはニッコリ笑い、小犬を置いて「もう、あんなところで座ってちゃダメだからね」と言って、歩き出した。




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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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