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2021.1.12
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神緒のべるず 第11話 シンデレラ・ドリーム -2-



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そうこうしているうちに、もうパーティーが行われる日の夕方になってしまいました。
楓ねえさんと巴ねえさんは、夜に行われるパーティーに向けて、すでに着替えて出発の準備を整えています。

楓ねえさんは言いました。
「睦、アンタはここで、明日の朝まで掃除をしていなさい。ちょっとでもサボったら、承知しないからねっ!」
巴ねえさんも、
「そうよ。朝までがんばりなさい」
と言います。私は、
「ハ、ハイ…。がんばります」
と、小声で言うことしかできませんでした。

楓ねえさんと巴ねえさんは、お城に向かって出発しました。
家に一人、残された私は、外へ出て、夜空を見上げて叫びます。

「ったく! 何がシンデレラストーリーよ! 良いことなんか、何一つ無いじゃない!
 世の中が不公平なのよ。 私が悪いんじゃない! 社会が悪いのよ、この社会が!」

そんなことをしていると、ふっと後ろに人の気配を感じました。振り向いてみると、そこには楓ねえさんにはよく似ているけれど、まるで妖精みたいな格好をした小柄な女の子が立っていました。

「だ、誰…?」
「うむ、わらわは『妖精おるる』じゃ」
「妖怪おるる?」
「妖精じゃッ!バカものッ! 妖精と妖怪では大違いじゃッ!」
「ご、ごめんなさい…」

なんだか、へんな聞き違いで妖精さんを怒らせてしまったみたいです。

「そ、それで、妖精さんが、どんなご用でしょうか? 私に?」

私が妖精さんに聞くと、妖精さんは「それはな…」と、わざともったいぶったように間を置いて答えました。

「おぬしに、少しばかり、手を貸してやろうと思っての」
「手…ですか…。」
「そうじゃ。まずは、おぬしに似合う衣装を出してやろう」

そういうと、妖精さんは、手をパンパンと、2回叩きました。
するとどうでしょう? 私の体が光に包まれ、気がつくと私は巫女装束を着ていました。

「って、ドレスじゃないじゃないーっ! 何よコレ? 妖精だか妖怪だか知らないけど、アンタ、私のことなめてるんじゃないの?」

私は妖精さんに詰め寄ります。妖精さんは慌てて

「ま、まぁ、待て待て。いきなり素を出すんじゃない。おぬしには、それが一番似合っておるということじゃ」

と釈明します。
納得はできかねますが、とりあえず納得しておくことにします。でないと、話が続かなそうですから。
私は次の要求をすることにしました。

「で。早く、カボチャの馬車でもナスの牛車でも何でも良いから移動手段を出しなさいよ」

それを聞くと、妖精さんはニヤリと笑い、私にこんなことを言います。

「まあ、焦るでない。というか、おぬしには本編でヒドイ目に遭わされているからのぅ。そう簡単に、要求を受け入れるわけにはいかん」
「ハァ? 本編? ヒドイ目? アンタ何言ってんのよ。私とアンタは初対面でしょうが!?」

それを聞くと,妖精さんは完全スルーして会話を進めます。

「代わりに、おぬしには3枚の札をくれてやろう」

妖精さんがパンッと手を叩くと、空中にポンと煙が立ち昇り、そこから赤・緑・黄色の3枚のお札がひらりひらりと落ちてきます。
私はそれを受け取りつつ、

「3枚のお札って! アンタ、バッカじゃないの!? 山に栗拾いに行くんじゃないんだからっ!」

それを聞くと、妖精さんは苦笑いをしながらこう言います。

「これでも、わらわはおぬしを応援しておるんじゃ。先々役に立つこともあることじゃろう。それから、これはわらわからの贈り物じゃ」

妖精さんは、懐よりガラスの靴を出しました。

「おっ。わかってるじゃない妖精さんっ! こういうのを待っていたのよ」

私はガラスの靴を履きます。

「なによ!この靴、堅くて痛いじゃない!」

そう言うと、妖精さんは苦笑いしながら、

「おぬしはさっきから文句ばかりじゃのう。ともかく、その格好で王子に会いに行け! わかっているとは思うが、午前0時には、衣装と札は消えてしまうぞ。幸運を祈る!」

と言うと、パッと消えてしまいました。
ったく…仕方がないわね。
私は歩いてお城まで向かうことにしました。



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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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