Written in Japanese(UTF-8)
2021.1.12
Ayacy's HP


/葦葉製作所/トップ/小説目次

神緒のべるず 第13話 スワップ・イン -4-



前へ / 目次へ
ハッと気付くと、周りは真っ暗。体は水に浸かっている。
ここは井戸の中か。5メートルくらい上方に光が見える。

そうだ。悪霊と戦っていて、井戸に落とされたんだった。戦うとはいっても、一方的なものだったけど…。
ここから登って、再び戦うか…。といっても無理だし、ここからでは睦を呼ぶこともできないし…。あの子達には悪いけど、もうちょっと時間が経ってから抜け出すしかないか…。

どうしようか、迷っていると、何かが心の中に語りかけてきた。

「お姉さん、お姉さん。ボクの声が聞こえますですか?」

周りを見回すが、誰もいない。

「左です。お姉さんの左側」

そう言われて左を見てみると、キツネの像の首より上の部分が浮かんでいた。

「あなたかしら?」そう問い掛けてみると、

「そうです。ボクです。よかったー。お姉さんに声が通じて」

そういえば、睦が遠い親戚だったことを思い出す。ちょっとは、オカルト的な力が私にもあるってことだろうか。

「それで、お願いがありますです。ボクはこんな姿になっちゃったので、さっきの悪霊を封じ込めることがもうできないのです。
 でも、お姉さんと力を合わせれば、あの悪霊をやっつけることができると思いますです」

なるほどね。でも、力を合わせるって、どうやってやるのかしら?

「それはですね。憑依っていうか、取り憑きますです。
 一度取り憑いちゃうと、そう簡単には離れられなくなっちゃうかもしれませんのですが、その代わりに強力なパワーを引き出すことができますのです」

ふむふむ。悪魔との取引みたいなものかしら。でも取引とかいうと、何か、代償とかあったりするんじゃないかしら?

「代償ってほどではないかもしれませんですが、今夜から油揚げがすごく食べたくなるかもしれないのです」

それだけ?

「それだけなのです」

わかったわ。それじゃあ、一緒に悪霊を倒しましょう。
ところで、あなたのお名前は?

「名前ですか? 名前はありませんのです…」

そう。それじゃあ…。
私は睦がたまーに使役する式神を思い出した。
たしか、「ドロン」とかいう名前だったっけ。最近見ないけど、なんでだろう? まあいいや。
それと、昔、幼児番組で見たキツネのぬいぐるみ。あれの名前、「ゴンタ」だったっけ。
それじゃあ、2つあわせて「ゴロン」なんてどうかしら?

「ありがとうなのです。それじゃあ、取り憑きますのです。
 お姉さんの体はボクが動かしますので、しばらく体から力を抜いていて下さいなのです」

そう聞こえると、パチっと何かがはじけたような音が聞こえ、ドクンっ!と、心臓が大きくはねるような感覚が全身に広がるのを感じた。
五感が急速に研ぎ澄まされる。井戸の外では、少年が悪霊から逃げ惑っている声がしている。
急がなきゃ!

そう思うと、私の体は井戸から飛び出していた。
井戸の横に着地。悪霊から逃げ惑っている少年と、男2人の姿が見える。

私は悪霊に殺気を送ってやる。悪霊は気づき、こっちに向かってきた。
気がつくと、私は近くにあった石を握っていた。何事かと思ったところで、心の中に声が聞こえてきた。

「ボクはこの井戸の周辺に式を描きますです。お姉さんは体に力を入れないで欲しいのです。
 その代わり、悪霊がどこにいるか、常に見ておいて欲しいのです」

わかった。
そう心に思うと、体が勝手に動き出し、石を使って地面に何やら巨大な魔方陣を書き始めた。
私は五感をフル稼働して、悪霊の位置を把握する。悪霊がこっちに向かってきたことがわかると、体が勝手に動いて悪霊を避ける。
なるほど。こうやって、私が悪霊の位置を把握すると、ゴロンが魔方陣を描くことに集中しながらも、体を動かして悪霊を回避することができるというわけね。

そうこうしているうちに、魔方陣らしきものが完成した。

「この式は自動的に発動しますです。あそこに立っている3人を、公園の外へ避難させてあげて下さいなのです」

というゴロンの声が聞こえると、ふっと全身の力が抜けたような感じがした。
ゴロンによる体の制御が解除されたと言うことか。

私は叫ぶ。
「早く、この公園から逃げて!」
そういうと同時に、公園内に描かれた魔方陣が光り出した。

すると、3人は慌てたように公園から逃げ出した。私も避難した方が良いだろう。
魔方陣の光はもっと強烈なモノになっていき、そのまま悪霊を取り込むと……消えていった。

「ふぅ。ひとまず、除霊成功みたいなのです」

ゴロンの声が聞こえた。



次へ / 目次へ

※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

葦葉製作所/トップ/小説目次