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2021.1.12
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神緒のべるず 第14話 そうだ!学校へ行こう -1-



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「里桜(りお)、光大朗さんがお呼びよ」

夕食の買い物から帰って来て、玄関で靴を脱いでいたところを、姉さんに呼び止められた。
自分が光大朗さんに呼ばれるなんて珍しい。姉さんなら仕事の依頼で、呼ばれることは多いと思うが。

つい、何か悪いことでもしたっけ…と、真っ先に思ってしまうのは悪いクセかもしれない。こんな時、姉さんならば「ああ、また仕事の依頼か」と真っ先に思うのだろう。が、あたしの場合は、一昨日も「真実の姉妹愛〜!」とか言いながら、姉さんに抱きついているところを近所の人に見られたことがあったため、それについて何か言われるのだろうか…、とか勘ぐってしまう。まあ、光大朗さんは奥手だから、あたしと姉さんの”スキンシップ”のことで何か言うようにも思えないが。

夕食の食材を姉さんに預け、光大朗さんのいる応接室へ入る。ここは探偵事務所の応接室だ。広くはないが、一応、それなりに豪華そうなテーブルが置いてあり、やはりそれなりに豪華そうなソファに挟まれている。
ソファには光大朗さんと、光大朗さんに向かい合うように、高校生くらいの女の子が座っていた。白いワイシャツに紺色のブレザー、そして紺色のスカート、白い靴下。いかにも学校の制服らしい服装をしている。

女の子が私に向いて、軽く会釈したので、あたしも軽く頭を下げる。童顔だがきりっとした顔立ちをしており、髪型はショートカットでおとなしそうな感じ。背格好から考えて、歳はあたしとそんなに変わらないくらいだろうか。
光大朗さんが「まあ、俺の隣にでも座ってくれ」と指示したので、光大朗さんのとなりに腰掛ける。よかった、叱られるわけではなさそうだ。

「えっと…、あたしを呼んだみたいだけど…」

光大朗さんに尋ねると、「依頼はこの人からだ」と目の前にいる女の子の方を向く。
あたしが再び女の子の方を見ると、女の子は再び会釈をするので、あたしももう一度頭を下げた。
なんか、永遠に頭の下げ合いをし続けそうだな。

そう思っていると光大朗さんが紹介を始める。

「この人はなあ。こう見えても…」

何かを言いかけたとき、目の前の女の子が、スッと手を出し、光大朗さんの紹介をストップさせる。
そしてようやく、女の子が自らの口で話し出した。

「まあ、宮本様。それはいいじゃありませんか。ここからは、わたくしがご説明いたします」

そう言われると、光大朗さんは「そうか…」と口をつぐむ。女の子の口調は、いかにも両家のお嬢様だが、おしとやかな雰囲気。育ちの良さが感じられる。そこから、女の子の説明が始まった。

「わたくしは、櫻井 乃々華(さくらい ののか)と申します。
 桜花聖陵女学院の高等部の生徒会で、副会長を勤めております。よろしくお願いします」

やっぱり高校生だったんだ、と思いつつ、お嬢様っぽい学校の名前だな、とか、そんなお嬢様にはどういう態度で接したら良いんだろうとか、色々複雑なことを考えたあげく、結局口から出た言葉は「はあ」……と答え、続きを聞くことにする。

「ご相談に上がったのは、当学院の生徒会長についてなのです。
 最近、ちょっと荒れているというか、本来生徒たちへの模範を示す立場にいるべき方なのに、度が過ぎていた行動を取られます。最近では、意見の合わない書記に、いきなりクビを言い渡してしまいましたし…、側にいる者として大変心配なのです」

なるほどね。乃々華さんの話が一段落したので、あたしは思っている疑問を尋ねてみることにする。

「そんな荒れている人が、どうして生徒会長なんかに選ばれたの?」

すると、乃々華さんは、ちょっと息を飲み込んで、少しの間、何かを思案して、それから答える。

「今は荒れている生徒会長ですが、生徒会発足当初は、とても優れたお方でした。生徒達からも人気がありましたし。
 それが最近、急に荒れるようになってしまわれて…側にいるわたくしにも理由をお話しして下さいませんし、大変困っているのです」

なるほど。悩みの原因はわかった。そりゃ、困った生徒会長さんね。あたしの親戚にも、荒れに荒れて酒を飲みまくる女子大生が一人いたっけ。
そういえば、荒れたときに落としていった荷物、まだ返していなかったな。とっとと返しに行かなきゃ。
まぁ、それはさておき。もう一つ、大事な疑問を尋ねてみる。

「お悩みの理由はよくわかったわ。…それで、あたしに何を頼もうってことなのかしら?」

それを聞くと、乃々華さんが「それで…」と、何かを言いかける。
そこで光大朗さんが手をスッと差し出し「それくらいは俺に言わせてくれ」と言い出した。

おしゃべり権の奪い合いか。面倒くさい人たちだ…。

「それでだな。里桜には、その学校にしばらくの間、潜入してもらって、その生徒会長と仲良くなってもらう。
 あの学校は、いわゆる超お嬢様学校だからな。今の生徒会長ほどに荒れた人の心の闇をなんとかするような友達はいないらしい。あるいは、もう試してみて、断念したやつらばかりなのかもな。
 生徒会としても、あまり大げさな事件にせず、問題解決したいようではあるし…。」

お嬢様学校というのはよくわからないけど、すごくギスギスしていそうな気がする。そういう意味では、友達を助けようなどという奇特な人材は居ないというのが正解かもしれない。
あくまで、あたし一人の思い込みでしかないのだけれど。

「それでだ。お前は学校に編入し、現在、生徒会で欠員となっている書記になってもらう。
 そこで、生徒会長とお友達になって心の闇を取り除いてもらおうというわけだ。
 つまり、依頼人はお前の年齢と、明朗快活な性格を見込んで、依頼を持ち込んできているわけだ。
 まあこの作戦を立案したのは、俺だがな!」

ふむふむ。作戦はわかった。でも…ちょっと不安なことがあるので、聞いてみることにする。

「そんな超お嬢様学校に、あたしみたいなのがいきなり編入したり、生徒会の書記になったりすることなんて、そんなに簡単にできるものなのかしら?」

すると、乃々華さんは

「それなら、わたくしにお任せ下さい。これでも生徒会の副会長ですし、わたくしの親族も学校に大きな力を持っております。そういった手続き事ならば、ご心配なさらず…」

そういうことか。

「なるほど、悪い言い方をすれば、裏口入学ね。」

あたしがそういうと、乃々華さんはちょっと暗い顔になったが、苦笑いしながら「そういうことになりますね」と肯定した。
やっぱりそうか。

うーん、いくら仕事の依頼とはいえ、正当ではないやり方ってのは嫌いだ。他人から見たあたしの姿はどうかわからないが、あたしは曲がったことが好きではない。
任務として、学校に生徒として潜入するのであっても、どうせなら、真っ正面から編入をしようじゃないか。それが、あたしのやり方だ。

「せっかくのところ申し訳ないのだけれど、あたしは正式な手続きに乗っ取って編入するわ。
 編入ってのは、試験かなんかを受けて、成績優秀だったらOKってわけ?」

そう聞くと、乃々華さんはちょっとビックリした表情をしながらも答えてくれた。

「は…はい。そうなります。
 ただ、伝統と格式のある学校ですので、編入試験を受けるにあたっては、やはり、しかるべき推薦者が必要になります。
 それについては、わたくしにお任せいただけますか?」

ふむ。推薦者か。

自分の身の回りの人物を思い浮かべてみる。光大朗さんは貧乏探偵だから論外か。姉さんも、ちょっと違う。近所で親戚の巫女姉妹も使えなさそうだし…。
そういえば島にいた頃のご主人様は超大金持ちだったと思うけど、今は連絡取れないし、それ以前にこういうことに力を貸してもらうのは筋違いな気がする。

よし、推薦者については素直に乃々華さんのお世話になることにしよう。これは別に裏口ではないよね。

「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「里桜! がんばってこい!」

かくして、あたしは超お嬢様学校の編入試験を受けることになったのであった。


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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