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2021.1.12
Ayacy's HP


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神緒のべるず 第14話 そうだ!学校へ行こう -2-



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「里桜さんって、すごいのね! 編入試験を満点で合格したんですって!?」

ここは教室。今はホームルーム後の清掃の時間。
今朝、転校生として紹介されたばかりだというのに、さすがはお嬢様学校。どこでウワサを聞きつけてきたのか、色んなお嬢様達があたしの周りを囲んで、お友達になりましょうとか、校舎を案内しますわとか、ワイワイキャーキャー騒いでいる。

「偶然よっ! 偶然っ!」

とりあえずそう答えておく。
いや、確かに、わりと本気を出して挑んだ試験ではあったから、だいぶ自信はあったのだけれど…まさか満点が取れちゃうとはね…。
それにしても驚いた。お嬢様学校というから、陰険な感じのお嬢様ばかりいるのかと思ったら、意外とそうでもないようだ。任務遂行中は平和な学園生活が送れそうだな…と思った。

その矢先、教室の後ろ側の扉が、ものすごい音を立てて開かれた。

ガラガラガラ! パーン!

教室内にいた全員の視線が、そちらの方向に集まる。
そして、扉を開けた人物を見て、皆一様に固まった。栗色の、よく手入れの行き届いたソバージュの髪の毛が肩に掛かっている。同じく栗色の眉毛はつり上がり、こちらをすごい勢いで威嚇しているのが見て取れる。

注目を受けている人物が、あたしの方に目を向けたかと思うと、ゆっくりとこちらに向けて歩みを進めつつ、歌うように話し出した。

「あ〜な〜た〜が〜! ウワサの転入生、神緒里桜さんかしらぁ〜?」

両手を腰に当て、エラそうなポーズをしている。
コイツ、上から目線で話しかけやがる。高圧的なしゃべり方と相まってムカつきまくる。
一発殴ってやろうかと立ち上がったところで、開きっぱなしになっている扉の外側で、乃々華さんが何やら目の前で手を合わせて、こちらに向けて「ゴメン」というジェスチャーを送っているのが見えた。そして口の前に人差し指。「穏便にしていろ」ってことか?

仕方がないので、穏便に、しかしながら眼光は鋭くして、返答してやる。

「えぇ、ウワサかどうかはわからないけれど、あたしがその神緒里桜よ。あなたは誰かしら?」

それを聞いた高圧女は、顔を真っ赤にして

「私のことを知らないですって? ハンッ! だから転入早々あいさつにも来なかったのねっ! これだから下賎(げせん)な輩(やから)には困るのよっ!」

と、まくしたてた。
校長室や職員室以外で、転入早々であいさつに行かなきゃいけない場所なんてあるのかしら?
サッパリわからないが、とにかくコイツはあたしに因縁を付けたいらしいことだけはわかった。

「とにかく、貴女、編入試験で満点だったからって、調子に乗っているんじゃないわよっ!
 もうすぐっ! 貴女にはこの学園には居られないくらいの恐怖を味わうことになるんだわっ!
 ふんっ、いい気味っ! おぼえてらっしゃい!」

それだけ言うと、高圧女は、開きっぱなしになっている教室の後ろの扉を通って、教室から出て行った。
乃々華はすでにそこにはない。う〜ん、どういうことなんだろう?
そんなことを考えていると、急に近くにいた生徒が話しかけてくる。

「里桜さん、なんか、大変なことになっちゃったね〜。あの方に目を付けられるなんて…!」

この生徒は、あの高圧女が何者なのかを知っているらしい。
気にくわない相手のことを知るのは気が引けるが、とりあえずアレが誰なのかわからないと話が進まないだろうから、とりあえず聞いてみることにする。

「あの人、何者?」
「千堂さゆりさん。生徒会長だよ。最近ちょっと荒れているみたいで…。
 生徒会で書記をやっていた子も、すごいイジメにあったみたいで未だに学校を休んでいるみたいだし」

「ふ〜ん」

なるほど。こんなところでターゲット発見、か。
う〜ん、光大朗さんから与えられた任務によれば、あたしはこれから、その女に気に入られなきゃいけないってわけか。
任務遂行に一抹の不安を抱いていると、頼みもしないのに追加情報がもたらされた。

「さゆりさんって、入学時の試験では99点だったそうなの。当時はそれを自慢していたみたいだけど、里桜さんが編入試験で満点を取ったからね。それで目の敵にされたのかもしれないね。
 とにかく、身の回りには気をつけた方が良いかもね」

身の回り…か。そう聞くと、急に背筋が寒くなってくる。これこそまさしく、想像していたとおりの陰湿で!陰険な!女子校生活なのだろう。
とりあえず、情報をくれた生徒には

「ご忠告、ありがとう」

とお礼を述べておく。とりあえず、生徒会長が敵になったことがわかった。
ただ、生徒会長がなんとなく他の生徒に疎まれていることはなんとなくわかったし、ポジティブに考えるならば、その生徒会長の敵であるあたしは、逆に他の生徒達みんなの味方ってことにならないだろうか。

与えられている任務の中には「書記になれ」っていうのもある。
生徒会長に気に入られていないというのは致命的だが、さっきの仮説が正しいなら、選挙権を持つ生徒達の賛同は得やすい立場に居るということにならないだろうか。そうなれば、与えられている任務も少しは遂行しやすくなるだろう。
しかし、もう少し、情報の分析をしてみた方が良さそうだな。

そうこう考えているうちに清掃活動の時間は終わり、放課後となった。
放課後は、教室中の生徒から、部活動はまだ決まっていないの?とか、委員会活動なんかどう?とか、色んなお誘いを受けることになった。
だが、いずれは生徒会に入る予定なのだから、周りの生徒達からの勧誘はすべて断り、一人で昇降口に行くことにした。

自分の下駄箱を探し、靴を…靴が…無い。
あぁ。「やっぱり」って言葉がすぐに浮かんできた。
そりゃそうだろうなぁ。靴を隠されるのなんて、定番中の定番だ。あまりにベタ過ぎて逆に笑いがこみ上げてくるくらい。

正直なところ、靴に画鋲が入っているとか、教室周辺に中傷ビラが貼られているとか、それくらいのことは想像していた。こんなことでショックを受けるようでは、任務なんて遂行していられない。それどころか、もう犯人確定確実であろう、生徒会長の野郎には一発くれてやらないと気が済まない。まぁ、本当にそんなことをしたら、編入早々停学か退学になってしまうかもしれないが…。

さてと、隠された靴でも探すかなぁと思い、周囲を見回してみる。周囲の下駄箱は、ネームプレートを除けば皆、同じ形をしており、それぞれ、靴が入っていたり上履きが入っていたりしている。靴が入っている下駄箱は、きっと文化部員や委員会活動をしている人のものであろう。逆に上履きが入っている下駄箱は、運動部員や帰宅部員のものであろう。

傘立てや、側にあったマットの下なども探してみる。下駄箱の上や、他の人の下駄箱の中や、周辺の廊下も探してみる。清掃用具入れの中も探してみる……が、やっぱり無い。

無いか…。と、周辺を見回してみると、少し離れたところに乃々華さんが立っているのが見えた。
ごめんなさい、という顔でこちらを見ている。そして

「こめんなさい」

と言った。そして、

「このあたりに、お探しの靴はないのです」

と、衝撃というか、これもまた『やっぱり』な発言をするのだった。
乃々華さんは申し訳なさそうに、手に持っている汚い布きれのようなものを差し出してくる。

あたしが、視線を布きれに移すと…どうやらそれは布きれではなく、元「あたしの靴」だったモノだった。

「これはやっぱり…、例の生徒会長の仕業かしら?」

あたしがそう尋ねると、乃々華さんは首を縦に振って肯定する。そして、

「こちらは替えの靴になります。登校初日ですが、試験で満点を取られた時点で、こうなることは、薄々わかっておりましたから……」

そう言って替えの靴を出してくれた。なんと準備の良いことだろう。あたしは新しい靴を受け取る。
あたしは「ありがとう」というと、乃々華さんはもう一度「ごめんなさい」と言った。あたしは「いいよ」と言う。

そして、乃々華さんは「もう一つ」と言って、一枚の紙を差し出してきた。

『生徒会役員 立候補届』

ワープロで書かれた文字が印刷された再生紙に、そう書かれていた。現在欠員になっている、生徒会書記の補選のための立候補届の用紙であろう。
ああ、なるほど。書記にならなきゃいけないんだったっけね。
あたしはその紙を受け取ると、自分の名前をサインして返してやる。手続きは乃々華さんが代行してくれるということで、良いんだろうか。
すると乃々華さんは、

「ありがとうございました。これはわたくしが頃合いを見て、担当の先生に届けたいと思いますので」

と、その紙を折りたたみながら言った。

「それから里桜さんは、選挙権を持つ一般生徒への知名度を高めておいてください。
 でもどうやら、編入試験の満点のことは、すでに学院中に広まっちゃっているみたいですから、里桜さんの知名度は、現状でかなり高くなっちゃっているみたいですけれど…」

「そうみたいね」

あたしは同意する。

「それでは、わたくしは生徒会室で会長を待たせていますので、これで…」

乃々華さんは立ち去ろうとしていたが、「ちょっと待って」と呼び止める。ここで気になっていたことを質問しておこう。

「あたしが見るに、今の生徒会長さんって結構不人気みたいだけど、何か理由を付けて、強引に辞めさせることはできないの?」

それを聞いた乃々華さんは、苦々しい顔で

「この学校の規則で、生徒会役員を辞めさせることはできません。
 生徒会役員は、自ら辞めると言わない限りは、任期満了まで続けることができてしまうのです」

と教えてくれた。乃々華さんも同じことを考えたことがあったのだろうか。そして、学校規則を読んで無理とわかった落胆したか。
先生には相談してみたのだろうか?

「先生とか、理事長とか、立場の強い人が辞めさせることもできないの?」

「この学院は、他の学校と違って少し特殊なのです。生徒会はかなり広範囲な自治が認められていますから、先生方が手を出すことはできません。教頭先生や校長先生も含めて。
 理事長は…よくわかりません。この学校は『理事長室』というものがあることはわかっているのですが、実際にその姿を見た人はいないらしくて…。」

なるほど。非常勤ってやつか。ロクに仕事もせず、優雅な暮らしをしているんだろうな。
聞けば、生徒会役員の認証式にも、校長は来ても理事長は来なかったのだという。
しかし……、権力的なセンが頼れないとなると、無理に引きずり下ろすことは難しいか…。と、そこで疑問が沸いた。

「でも……そういえば……、前の書記って、会長に辞めさせられたんじゃなかったっけ? 他人から辞めさせる方法があるってことじゃないの?」

そう聞くと、乃々華さんは悲しい顔をして「それは…」と言い、

「自分の口から『辞める』と言うよう、徹底的にイジめられたんです。靴などの持ち物は頻繁に無くなりましたし、
 量のお部屋にお寿司屋さんを勝手に呼ばれたり、街宣車が現れたり、学校内に謎の中傷ビラが貼られたり…」

そういうと、乃々華さんは涙ぐんで、

「わたくしは…わたくしは里桜さんに、前の書記の方と同じような立場になることを強要しているんです。わたくしは、前の書記の方が、どんどん壊れていくのをこの目で見てきました。でも、止められなかった!彼女は正しいことをしていたのに! おかしな話ですよね………。
 でも、会長を更正させてあげるには、それを乗り越えるしかないと思うんです! わたくしの見込んだ里桜さんは、そんなことではへこたれない、強い意志を持っていると思います! それに、わたくしは今回こそは逃げません。できる限り、会長の目を盗んで里桜さんの支援をしたいと思います!」

と言い、顔をこちらに向ける。目は涙でいっぱいだが、しっかりとした意志をもった目だ。
あたしはそれを確認すると、

「よしっ!」

と言い、乃々華さんの両肩を叩く。

「それじゃ、さっそく、あたしを生徒会室に案内して。殴り込みを掛けるから」

乃々華さんは一瞬驚いた顔を見せたが、「わかりました」と、案内してくれた。


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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