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2012.6.18
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神緒のべるず 第15話 黒猫の恩返し -2-



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———放課後。
ふうっ。やっと……、やっと解放された。

授業もホームルームも終わり、やっと帰宅できる時間になった。
まあ、帰宅できる時間ではあるが、大幅に熱さがしのげるようになるというわけではない。強いて言うなら、帰りに乗る電車の中は冷房が効いているであろうことと、学校よりは風通しの良い造りをしている自宅に居た方が、涼しいんじゃないかと思えることだろうか。

あたしは友達と一緒に、帰りの電車に乗る。
あーでもない、こーでもない、そーでもない…と言ったような、どうでも良い会話をぺちゃくちゃぺちゃくちゃしゃべりながらの帰宅。こういう、わずかな時が、結構幸せだったりするのだ。
ほら、誰か言っていたじゃない。きっと、なんでもないようなことが、幸せだったと思うって感じられる日が、いつか来るんだと思うのだ。

ただ、そこに一瞬、いつもとは違う光景が、目に入ってきたような気がした。
なんというか、違和感。それを感じさせるのは、隣の車両だ。

あたしの幸せは邪魔されちゃうんだろうか。…そう思いはしたが、好奇心に耐えられず、そっと、隣の車両の様子を伺ってみることにする。
そこに見えるのは、さっきのネコ耳を付けた女の子。こっくり、こっくりと、眠っているようだが、今度はしっかりと、ネコ耳を付けているのが見える。
冷房の効いた電車に乗っていて涼しいから、ネコ耳を付けたんだろうか。どういうファッションなのか分からないけど、ちょっと気になる。

あたしは思わず凝視してしまっていたのだが、急に女の子が眠りから覚めそうな様子になったので、慌てて目をそらす。
他人の頭をじーっと見ていたら、なんか変な人が見てるーって、こっちが思われちゃいそうだし……。

その後、ちらっとその女の子の方を見た時には、すでにネコ耳は取り外されていたようだった。



———数十分後。
やっとの思いで、自宅にたどり着くことができた。
って、いつもどおりなんだけど。

そんなことを思いながら、制服を脱いで、いつもの巫女装束に着替える。
やっぱり、こっちの方が涼しいよなぁ。

そういえば、姉は不在のようだし、妹も居ないようだ。姉は、まぁ、いつもの通り、明日香さんにちょっかいを出しに行っているんだろう。妹は、学校帰りの寄り道を楽しんでいるに違いない。
しばらくは一人で静かに、ゆっくりできるかなぁと思い、通学鞄から教科書とノートを取り出す。宿題をやらないといけないからね。

いつもは宿題を出されないはずの歴史の授業で、今日は珍しく宿題を出されていた。お題は、江戸時代の科学水準についてレポートをまとめろ、とか。
やっぱり、あたしが外を見てボーッとしていたせいだろうか。
まぁ、江戸時代の科学のことなら、知り合いにとっても詳しい人(というか当事者)が居るので、聞いてしまえば終わりなんだろうけど、それは反則だろうかね。

ノートをテーブルの上に置き、ノートを開く。
ノートの上に手を置くと、手の形のシミができる。

うわっ! 汗かっ!
夏の暑さ加減に、もう嫌で嫌で嫌悪感に沈んでいたら、外から「すいませーーーーーん」と声が聞こえてきた。
誰だろう? うちの神社に誰か用でもあるんだろうか?

外へ出てみる。
母屋の入り口から、とりあえず声のした方向へ。

すると、お賽銭箱の前で、さっきのネコ耳少女が「すいませーーーーーん」と再び叫んでいた。ちなみに、今はネコ耳を装着していないようである。
「誰もいないのかなぁ」と言いながら、後ろを振り向いたところで、あたしと目が合った。

「あっ、神緒さんっ〜〜!」

とととっ、と、あたしの方へ小走りで駆け寄ってきた。このネコ耳少女は、あたしのことを知っているようだ。はて、誰だっけ?

「神緒神社って、やっぱり、神緒さんのおうちだったんだね〜。よかったー。野太い声の知らないおじさんとかが出てきたら、もう、どうしようかと思っていたところなんだよ〜」

猫みたいな声でそんなことを言っている少女。はて、誰だっけ?
すると、こちらが誰だかわからないことに気付いたのか、ネコ耳少女は、

「あれ? 神緒さん、私のことを忘れちゃってる? ほら、木下———」

あ、思い出した。木下———木下弥生(やよい)さんだ。前に、一度だけ同じクラスになったことがあったんだっけ。

「弥生さんね」

弥生さんの後を引き継ぐように、名前を呼ぶ。すると、弥生さんはうれしそうに、両手を前で斜めに合わせて

「そうだよ〜。思い出してくれたんだね〜。よし、よし」

と、うれしそうに笑っていた。ああ、良かった。思い出せて。

しかしまぁ、屋外は熱い。弥生さんは炎天下でネコ耳を付ける趣味を持っているようだから良いとして、あたしは、もう、どうにかなりそうだったので、とりあえず

「まあ、立ち話もなんだから、屋根の下に入らない? ここにいると熱いから…」

と、母屋へ入ることを促す。

「そう? それじゃ、お言葉に甘えて〜」

猫みたいな声でお言葉に甘えられた。



母屋へ案内する。
靴を脱いで玄関を上がり、あたしの部屋に案内し、ちょっとの間、座っていてもらう。やろうとしていた宿題は、いったん通学鞄の中にしまい、「ちょっと待っててね」と弥生さんに告げる。
弥生さんは「おかまいなく〜」と言うが、そういうわけにもいかないだろう。

あたしは台所へ行くと、冷蔵庫から来客用のオレンジジュースを取り出す。ああ、冷蔵庫の冷気は、どうして気持ちいいんだろう。
コップを2つ、棚から取り出し、冷凍庫から氷を6つ取り出し、コップに3つずつ投入。ああ、冷凍庫の冷気は、冷蔵庫の冷気よりもさらに気持ちいいね。

オレンジジュースをコップに注ぎ、お盆に載せて、それから、適当にせんべいを3〜4枚つかんでお盆に載せる。
オレンジジュースの注がれたコップに、内側から氷があたって、綺麗な音を鳴らす。この音だけで癒されるのよね。

お盆を手に自室へ戻ると、弥生さんはおとなしくテーブルの前にちょこんと座っていた。
あたしが「おまたせ」と言ってお盆をテーブルに載せると、弥生さんは「いえいえ〜」と、はにかんでいた。
ああそうか! 来客なんだから、クーラーの設置されている居間に案内して、堂々とクーラーを効かせれば良かったんじゃないか、とも思った。が、まあ、いいか。

あたしは座って「それで、今日はどうしたの?」とフランクに聞いてみることにする。
すると、弥生さんは一瞬、ためらったような表情をして下を向いたが、すぐに何かを決意したような表情になり、まっすぐにこちらを見る。そして、口を開いた。

「あっ、あの…っ。最近、私、ちょっと頭がヘンなの〜…」


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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