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2021.1.12
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神緒のべるず 第15話 黒猫の恩返し -4-



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数分後、除霊を終えた弥生さんが自室に戻ってきた。
「ありがとう〜。なんか、さっぱりしたよ〜」
顔と腕を洗ってさっぱりとした弥生さんが、気持ちよさそうに言った。

「それじゃ、そこに座って。で、じっとしててね」

あたしがそう告げると、弥生さんは「わかった」と言い、じっとしている。あたしは弥生さんの頭の上に手を伸ばし、精神を集中する。
よしっ。ネコ耳っぽい存在は、無くなったみたい。

あたしは念のためにもう少し長く調べ、確実に霊障がなくなったことを確認してから、弥生さんに「もう大丈夫よ」と告げた。

「ありがとう〜。助かったよ〜」

猫っぽい声は消えていないが、これはきっと、弥生さんの地のしゃべり方なのだろう。
あたしも弥生さんも一安心し、それからジュースを飲み終えると、弥生さんを見送った。

「さてっ、あたしはこれからか!」

ちょっとだけ、気合いを入れる。そして念のために、攻撃用のお札を束にして懐に入れる。
そして、風呂場へ向かった。

風呂場の周りに、内側から簡単に結界を張る。そして、風呂場の中央に置かれた、塩水の入った桶を、ちょんちょん、と、つっつく。
桶の中の水に、円形の波紋が広がっては縮まり、縮まっては広がり…を激しく繰り返す。

そして、あたしは「おーい。もう良いぞ−。でてこーい」と、軽く声をかけてやった。

桶の中の水の波紋が、しだいに激しくなってきた。
数秒後、桶自体がカタカタと揺れ始め———、水が大きなミルククラウンのような形状に変化し———、水の中から、無音で一匹の黒猫が飛び出して来た。
きっと、これが、弥生さんが飼っていたという「タマちゃん」の霊なのだろう。

黒猫「タマちゃん」は、本当に全身が真っ黒なのだが、目を開くと目の中は緑色をしており、非常に目立つ。
タマちゃんはそのまま窓の外へ飛び出そうとするが、結界が張られているため、はじき返される。
ガラスのドアの方へ行こうとするが、これもまた結界ではじき返される。
その後、壁に激突したり、再び窓から外へ行こうとして、何度か結界にはじき返された後、おとなしくなった。

あたしは、タマちゃんがおとなしくなったことを見届けると、「最後に、何かしたいことはある?」と、優しく尋ね、人差し指を差し出した。
すると、タマちゃんは「みゃあ」となき、あたしの指をぺろぺろなめる。

すると、「外へ出たい、案内したい」という意志が、なんとなく伝わってきた。

あたしは頷くと、結界を解除し、猫と共に外へ出ることにした。



「この炎天下に、どこへ行こうって言うのかしら。黒猫って黒いから、きっと熱の吸収率も高いわよね…」

というあたしの心配を余所に、黒猫「タマちゃん」はアスファルトの道路をゆうゆうと歩いている。もちろん、他の人には見えないんだろうけど。
あたしはタマちゃんの後を歩いているというわけだ。

「ねぇ、一体どこへ行くの? あたしはもう、熱くて疲れたよぉ」

あたしの嘆きに、タマちゃんはちょっとだけ立ち止まって「みゃあ」と一言だけ答え、あとは無言で再び歩き出した。

「味気ないわね…」

これで目的地が隣の県とかだったら、先に帰っていることにしようかしら………なんて思っていたら、ようやく目的地にたどり着いたようだった。
ここは団地の庭に設置された花壇の前。もしかしたら、この団地に、木下さんが住んでいるのかもしれないな。

タマちゃんは、花壇の中の、土が見えている箇所に、スタっと飛び乗る。そして、前足で土を掘ろうとしているようだった。

花壇の土は軟らかいのだが、あのまま掘り続けていても時間がかかりすぎてしまうだろう。
あたしは道に落ちていた大きめなプラスチック片を見つけると、タマちゃんにどいてもらい、プラスチック片を使って掘り始めた。

形状がシャベルっぽくないためか、掘るのには意外と苦労したのだが、なんとか穴を空けることに成功。そこには、長さ20センチくらいの茶色い固まりが埋まっていた。
茶色い固まりを、ぱんぱん、と叩き、簡単に土を落とす。この形状は………かつおぶし?

するとタマちゃんが、それに飛びついて、あたしから奪い取る。あらら、そんなに慌ててどうしたん?
前足で突いたり、掴んだり、頬ずりしているような感じで、物体の様子を確認しているようだ。「みゃあ」と一声。どうやら、確認完了ということだろうか。

タマちゃんは、その物体に鼻を近づけ、ニオイを嗅ぐようなしぐさをする。へぇ、猫って、こんな感じでニオイを嗅ぐんだ。知らなかった。
そして、前足でチョンと蹴り、あたしの方に投げて寄こした。ん? どうしろっていうんだろう。
あたしにも、これのニオイを嗅げと?

タマちゃんが、コクンと首を縦に振る。猫って、こんな感じで頷いたりもするんだなぁ、と思いながら、その物体のニオイを嗅いでみることにする。
なるほど。しょっぱいような、香ばしいような、不思議なニオイを感じる。ちょっとだけ頭がクラっとして、あたしの周りがちょっとだけ、ピンクの霞がかかったように見える。
アレ?なんだろう。

タマちゃんが、後ろ足2本で立って、二足歩行してこちらに歩いてきているように見えるんだけど……。

「どうも、ありがとうですみゃあ」

ひ、ひゃ、タマちゃんがしゃべった!

「どうか、驚かないでほしいですみゃあ。お姉さんに助けてもらったお礼に、ボクの生まれ故郷に案内したいですみゃあ」

生まれ故郷って、猫の国ってこと?

「まあ、そんなようなもんですみゃあ。見るとお姉さん、ちょっとお疲れみたいですみゃあ。ここからすぐだし、ちょっと来て、休んでいってほしいですみゃあ」

うん、わかった。
あたしが頷いてみせると、タマちゃんが前足を合わせるようにしてパンと叩く。すると、周囲の風景のピンクがさらに濃くなっていった。


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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