Written in Japanese(UTF-8)
2012.6.18
Ayacy's HP


/葦葉製作所/トップ/小説目次

神緒のべるず 第16話 夏だ!海だ! -3-



前へ / 目次へ
わたしは里桜さんのいる場所まで行き、そこから一緒にお屋敷まで帰ることになった。
里桜さんはお屋敷まで帰る途中「そういえば…」と言って立ち止まった。

「さっき楓ちゃんがいた場所って……、ずいぶん長い間、いたみたいだけど、誰かと一緒にいたの?」
「うん、いたよ。男の子が一人」

そう言うと、里桜さんは「そっか…」とつぶやき、再び歩き出す。わたしが「どうして?」と聞くと、里桜さんは

「ホラ、ここってプライベートビーチじゃない? 知らない人が勝手に入って来ちゃいけないのよ。去年も……って、去年は楓ちゃんが何も知らずに空から降りてきたんだっけね」

と、人差し指を上に立てつつ説明してくれた。なるほど。

「それで、今年も、プライベートビーチだってことを知らずに入って来ちゃう人がいたとしたら……、なんか、それと分かるように…というか、勝手に人が入ってこられないように対策をしないといけないな、と思ったの」

そうか。……でも、それは困る。そんなことしたら、明日、九兵衛くんが入ってこられなくなっちゃう!
わたしは慌てて

「いや、その、そうじゃなくて…。別に変な子じゃなかったし。その……」

と、自分でもわけのわからないことを口走る。それを見た里桜さんは「そっか」と、わたしの方を向いてニコっと笑って

「大丈夫! 対策をするとしても、そんなすぐに始めるわけじゃないから。しばらくは大丈夫よ」

と、言いながら、わたしの頭に手を乗せて、わしゃわしゃと左右にゆすった。
ふぅ。なんとかなりそうだ。

それにしても、里桜さんの位置からは、九兵衛くんの姿って見えなかったんだなぁ。



夕食は、とびきり豪華なお食事だった。明日香さんと里桜さんが作った力作らしい。こんなにスゴイものを食べたのは初めて…かも。

夕食を食べ終わると、テレビのバラエティ番組を観ながら、睦お姉ちゃんと明日香さんは、なにやら雑談をしている。たまに睦お姉ちゃんが明日香さんの頭をグリグリ撫でたり、覆い被さったりしていたが、あれもコミュニケーションの一種だろう。大人の女の人ってのは違うんだな。

巴お姉ちゃんは、何やら持ってきたノートパソコンとにらめっこしていた。何をしているんだろう? よくわかんないけど。

わたしは、昼間に撮影した、このお屋敷から見える海の写真とお屋敷の写真、それから、豪華な夕食の写真を、クラスメイトの瀬名ちゃんに携帯メールで送っていた。
どうだ! ハワイも良いところかもしれないけど、この島だってこんなにスゴイところなんだよ!

九兵衛くんも、今頃は夕食を食べてノンビリしているんだろうか? わたしのこと、覚えてくれているかな?
明日も会えるんだよね。うふふふっ。



翌朝、岩場のところへ行くと、九兵衛くんが待ってくれていた。丸坊主に、褐色の肌に、紺色の海水パンツ。昨日のままの姿だ。
「おまたせ、今日も来てくれていたんだね」
わたしが元気よく声を掛けるのだが、九兵衛くんはなんだか浮かない顔をしている。
「うん…、昨日約束したからね…」
返事は返ってきたが、なんとなく元気がない。どうしたんだろう。

でもこういう時は、つらいことは全部忘れて、めいっぱい遊んじゃうのが一番だ。わたしは浮き輪を片手に、九兵衛くんの手を取って、海の方へ連れて行こうとする。

「ホラホラ。元気がないときは、思いっきり遊んじゃうのが一番だよ! それとももしかして、風邪でもひいているの?」
「ううん、そうじゃないんだ。ただ…」
「ただ?」
「海には、ちょっと入りたくないんだ」

海に来ているのに、海には入りたくない? どういうこと? わたしは不思議に思ったので、

「どうして?」

と聞いてみる。しかし、返事は返ってこない。
らちがあかないので、九兵衛くんの手を引っ張ってそのまま海に入ろうとするが、九兵衛くんの体は全然動かない。

改めて「どうしたの?」と聞いてみると、「海はダメ!」と叫び、やっぱりその場から動こうとしない。
わたしは九兵衛くんの目をじーっと見続ける。何か隠し事をしているらしい。しばらくの間、ずーっと見続けていると、九兵衛くんは根負けをしたように目をそらした。
そして「相談したいことがあるんだ…」と話し出した。


次へ / 目次へ

※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

葦葉製作所/トップ/小説目次