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2012.6.18
Ayacy's HP


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神緒のべるず 第16話 夏だ!海だ! -4-



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「お願いがあるんだ。海の見えない場所に、かくまって欲しいんだ」

相談っていうから何かと思ったら、九兵衛くんは唐突にそんなことを言い出した。
海に来たのに、海の見えない場所に行きたい? わたしは全然意味がわからなかった。が、なにやらその、せっぱつまった気持ちは伝わってきた。

「わかった。わたしが今、泊まらせてもらっている場所に案内するね」
「ありがとう、楓ちゃん!」

もしかして、九兵衛くんに名前を呼ばれて感謝されたのは初めてかもしれない! わたしは飛び上がって喜びたくなるが、グッとこらえる。こんなシリアスなフインキのときに、いきなり飛び上がったら、変な子って思われるかもしれないし。…あれ、フンイキだっけ? まあいいや。

わたしは九兵衛くんを、お屋敷内でわたしが泊まっている個室に案内してあげた。ただ、わたしが、この場所に長い間いることはできないだろう。明日香さんや睦お姉ちゃんたちを心配させてしまう。それとなんとなく、明日香さんや睦お姉ちゃんたちに相談するのは躊躇われた。九兵衛くんとわたしの秘密を共有している状態を保ちたいからかもしれない。

「ここが、楓ちゃんの部屋なんだ。広いんだね」
「うん、まあ、借りている部屋だけど…」

わたしが泊まっている部屋は、屋敷の端の方にある一般の客用の個室であるが、ホテルの一室のように飾られた内装になっていて、なかなか豪華な感じだったりする。

「なんか、すごいなぁ」

九兵衛くんはさっきから、きれいとかすごいとか広いとか連発している。まあそれはいいんだけど、九兵衛くんは、どんな悩みを抱えているんだろう。
ひととおり、きれい・すごい・広いを言い終わると、九兵衛くんは、

「それじゃあ、今日は僕はこの部屋にいるね。楓ちゃんはどうするの?」

と尋ねてきた。わたしは…、わたしはどうしよう。
このまま部屋の中に居たい気持ちもあるけれど、居続けるわけにはいかない。

「わたしは、お姉ちゃん達が心配するから、海に戻ることにするね。でも…」

わたしはこのまま海に戻るとして……、九兵衛くんのお昼ご飯はどうしよう…。
そうだ! わたしは自分の持ってきたリュックサックの方へ行き、おもむろにポケットを開ける。
飴やらクッキーやらスナック菓子やらと、様々なおやつがどっさり出てきた。これを食べておいてもらおう。

わたしは両手いっぱいに、飴とクッキーとスナック菓子を取り出すと、九兵衛くんのところまで持っていく。

「お腹空いたら、これを食べててね」
「うわ! ありがとう!」

九兵衛くんはビックリしていた。まさか、食料にありつけるとまでは思っていなかったのだろう。
九兵衛くんの喜ぶ顔を見られるのは、わたしもうれしい。

「それじゃ、わたしは海に戻るから」
「うん、わかった」

わたしは九兵衛くんに別れを告げると、何事もなかったように砂浜まで戻る。
砂浜では、睦お姉ちゃんが砂山を造り、巴お姉ちゃんは相変わらず本を読んでいる。

何食わぬ顔をして砂浜に戻ってきたつもりだったんだけど、巴お姉ちゃんはわたしが来たことに気付き、

「あれ? どこへ行っていたの?」

と聞いてきた。ヤバイ!なんて答えよう…。すると睦お姉ちゃんがニヤリとして、

「あー、あれでしょう。また彼氏のところへ行っていたんでしょう。例の」

わたしは顔を真っ赤にする。その反応で、巴お姉ちゃんにも睦お姉ちゃんにも、正解であることが伝わったようだ。
も、もう、うるさいなぁ。巴お姉ちゃんは平静な顔を装っているが、サングラスの端がキラリと光った。

「へぇ、彼氏…?」

そこ、つっこまないで!


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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