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2021.1.12
Ayacy's HP


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神緒のべるず 第16話 夏だ!海だ! -6-



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翌日。
窓をガタガタ揺らす風の音で目が覚めた。

外は大嵐になっていた。昨日までは、ものすごく晴れていたというのに、一転して今日はものすごい嵐である。どうしたことだろう。
ふと横を見ると、九兵衛くんがブルブル震えていた。そして「僕のせいだ…、僕のせいだ…」と、ブツブツつぶやいていた。

わたしはあわてて起き出し、九兵衛くんのところまで歩いて行く。肩に手を置き、

「どうしたの? なにが、九兵衛くんのせいなの?」

と聞いてみる。すると、九兵衛くんはうつむきながら、「じ、実は……」と事情を語り始めた。

「実は、僕は父さんとケンカしちゃって、家を飛び出してきたんだ。あ、家は海の中にあるんだけどね」

そうか。どこからきたの?と聞いて、海を指さしたのは、そういうことだったのか。

「海の見える場所にいると、なんだか父さんに見られているような気がして、海の見えない場所まで逃げてきたんだけど……父さん、怒っているのかも…」

天気を操る規模の妖怪が怒り出すとなると、たしかにやっかいである。どうしたらいいだろうか。お姉ちゃん達に相談した方が良かったんだろうか。お姉ちゃん、怒るだろうなぁ。なんとか一人で解決しないと…。

そう思っていると、ドアがドンドンと叩かれる。「コラ、ここを開けなさい!」「かくまっているんでしょ!大変なことになる前に、早く!」
睦お姉ちゃんと、巴お姉ちゃんだ。タマちゃん、裏切ったな! あとで一時帰省の刑に処す!

とはいえ…ど、どうしよう…。わたしはオロオロしていた。九兵衛くんもブルブル震えていた。お互い顔を見合わせて、どうしたらよいか分からないでいると…、

急に風の音が強くなった。
ガチャンという激しい音。ガラスの割れる音。
ガラスが割れて、すごい勢いで風が部屋の中に入り込んできて、、、気付けば九兵衛くんが風に飛ばされ宙に浮き、そのまま窓の外に飛んで行ってしまった。
そ、そんなことって!

もう、一人では解決できない。パジャマのままであるが、格好など気にしていられない。あわてて部屋のドアの鍵を開ける。部屋に強行突入しようとしていたお姉ちゃん達とぶつかる。3人で転んでしまった。睦お姉ちゃんが、こちらを心配そうな目で見ている。

「か、楓…ッ!」
「お姉ちゃん、ゴメン! でも今はそれどころじゃ…」
「わかってる!叱るのは後!」

タマちゃんがやってきて、手早く状況を説明する。
「大変だにゃ! 海の神様がお怒りにゃ! 楓が、あの小坊主をさらった犯人だと思っているにゃ!」

わたしたち3人は立ち上がる。こうしちゃいられない。
睦お姉ちゃんはタマちゃんの首根っこを掴むと「コイツを生け贄にして、許してもらいましょう」と叫んだ。タマちゃんが、睦お姉ちゃんの手の中でぎゃーぎゃーわめいている。

巴お姉ちゃんはタマちゃんを強引に奪い返し、「こんなときに、冗談を言っている場合じゃないでしょう!?」と、滅多に見ない怒りを表した。
睦お姉ちゃんはビックリして、「けっこう本気だったんだけどなぁ…」と小声でつぶやいていた。

とにかく誤解を解かないといけないだろう。
わたしたち3人は屋敷の外へ飛び出し、砂浜の方へ走っていった。するとそこには、海の中から空に向かって伸びる水流が、まるでバケモノの体のように立ち上がった。
10メートルはあろうかという高さの、不自然な海水の盛り上がりができあがり、そこから数十匹のヘビのように出てきている触手のような……あれも水で出来ているのだろうか?……もので体を絡め取られた、九兵衛くんの姿が見えた。

九兵衛くんは悲痛な表情を浮かべている。あきらかに痛がっているようである。
楓は慌てて駆け寄り、「いやーっ! 離してあげて!」と、大声で叫ぶ。

それが聞こえたのか、バケモノからは「お前が九兵衛をたらしこんだ、ふしだらな人間のメスか!」と、恨みがましい声が聞こえてきた。
聞く耳は持ってくれなさそうだ。

風はどんどん強くなる。自分の軽い体重では、すぐにでも飛ばされてしまうかもしれない。
攻撃用のお札では、おそらく風に飛ばされてしまい、バケモノにダメージを与えるのは難しいだろう。もっと強力で嵐の中でも使えそうな対霊用攻撃の神具は、自宅に置いて来てしまっている。こんな状態で、あんなバケモノに、どうやったら太刀打ちできるというのか。

わたしが色々考えていたら、急に風に足をすくわれて転びそうになる。わたしがよろけると、後から巴お姉ちゃんが来て、支えてくれた。
巴お姉ちゃんは、バケモノのことを睨みつけている。

「あの子の父親ってことは、海坊主なんでしょう。海坊主が、あんな姿のバケモノであるはずがないのよね。きっと、どこか別の場所に隠れていて、あのバケモノを出現させて、あたしたちを脅しているだけのはずなのよ」

いつの間にか、隣には睦お姉ちゃんが来ており「そうね」と答えていた。
「巴、あなたの見立てでは、バケモノの本体はどこにいると思う?」
「たぶん、あの、盛り上がっている海水の中心。あそこから、強い霊力を感じる」

睦お姉ちゃんは、それを聞き、「よしっ」とつぶやくと、「誰かが、あの下を調べてきて、本体がいたら、直接攻撃を加えてやればよいわけよ」と言いながら、巴お姉ちゃんの肩にしがみついているタマちゃんをがっちり捕まえる。

巴お姉ちゃんは、わたしのことを押さえてくれているため、タマちゃんを救うことはできない。
タマちゃんは、風に飛ばされないよう一生懸命巴の肩に捕まっていたためか、今の会話を聞いていなかったのだろう。がっちり捕まれて、タマちゃんは困惑している。睦お姉ちゃんが、タマちゃんの顔を真正面から見つめる。
神緒のべるず 第16話 夏だ!海だ! 挿絵「にゃ? オイラの顔に、何か付いているんかにゃ?」
「そうよ、だから、顔を洗ってきてもらおうと思っているの」
「ハッ! まさかっ!」
「その、まさかよ!」

睦が、鬼の笑い顔のような顔をタマちゃんに向けている。
タマちゃんは、何かを察したようだ。

「ねっ、猫は水が苦手なんだにゃ!」
「アンタは、猫じゃなくて猫又でしょっ!?」
「そ、そうだけど、さすがのオイラもあんなところに飛び込んだらタダじゃすまないにゃ」
「前に辞書で調べたら、猫又って意外と丈夫だって書いてあったわ!」
「そんな辞書存在するわけないにゃ! お姉さんはウソつきにゃー!」
「観念しなさいっ!」
「に、にゃにゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

睦はタマちゃんの首根っこをひっつかむと、「海に猫が入って、ウミネコになりなさーーーーーーーーーい!」と訳の分からないことを叫びながら、勢いよくバケモノの足下に放り投げた。



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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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