Written in Japanese(UTF-8)
2021.1.12
Ayacy's HP


/葦葉製作所/トップ/小説目次

神緒のべるず 第16話 夏だ!海だ! -7-



前へ / 目次へ
タマちゃんが放り投げられた後、事態は少しの間、膠着状態となっていたのだが、

「ん!? なんだこれは!? お、オマエ! な、何をする、うわぁぁぁぁぁ!」

という声が聞こえ、海上のバケモノが急に消えて行った。きっと、タマちゃんがバケモノの本体を見つけて、かみつくかひっかくかしたのだろう。
九兵衛くんが海に落下する。
わたしはあわてて、九兵衛くんを助けに行った。

嵐だったはずの空が、急に晴れ渡る。さっきまでの嵐が嘘だったかのような、雲一つ無い快晴。

パジャマのまま水に入るのは気持ち悪いが、今はそんなことは言ってられない。なんとか、水を掻いて九兵衛くんのいる場所までたどり着いた。
わたしが九兵衛くんを引っ張ろうとすると、下から何かが浮かんできた。

「あ、誰かいる…?」

その人は、ふらふら〜っと上がってきた。人っていうよりは、でっかい頭と、でっかい胴体。例えるならば、お正月に出てくる鏡もちから手足が生えたような体型で、褐色の体を持った妖怪が浮いてきた。
鏡もち妖怪は気絶しているようだ。仕方ないので、九兵衛くんと一緒に、その鏡もちも一緒に引きずってくることにした。
途中から、睦お姉ちゃんと巴お姉ちゃんも手伝いに来てくれた。

砂浜に到着。改めて、鏡もち妖怪を見る。鏡もち妖怪が、その、海坊主のお父さんということなのだろう。睦お姉ちゃんは、海坊主のそばによると、ペンペンと、頬を叩く。
「お〜い、起きろー。起きろってーの」
ペン、ペンペン。しばらく叩き続けていると、むくっと起き出し、周囲を見回して状況を把握すると、急に土下座をし始めた。

海坊主はわたしの方を見ると、ちょっと困ったような顔をしたが、睦お姉ちゃんが簡単に事情を説明してやり、だいたい納得してもらったようだ。

「怒りにまかせて、いきなり攻撃してしまって、本当、すまなかった!」

しばらくして、九兵衛くんが起き上がった。わたしが話を聞いてみると、やはり九兵衛くんは、そういうお父さんの怒りにまかせて突発的な行動を取ることに嫌気がさして、親元を離れたいと思ったのだという。
睦お姉ちゃんは「これからは親子仲良く、暮らすのよ」と、諭していた。

そして、睦お姉ちゃんはわたしの方に近寄ると、小声でこんなことを言い出した。

「いい? 九兵衛くんもね、大人になると、ああいう体型になるのよ」
「えッ! そうなの…?」
「うん、そうよ」

わたしは改めて、九兵衛くんとそのお父さんを見比べる。九兵衛くんは、自分を見られたことに気付いたのか、ちょっとはにかんでいた。いや、そういう意味じゃないって。

うん、お別れしよう。
わたしは九兵衛くんに近寄り、

「やっぱり、親子で仲良く暮らした方がいいよね」

と、好意的な感じで別れを切り出すことにした。

「うん、楓ちゃん。お家にまであがりこんじゃって、ごめんね。ご飯ありがとう。おいしかったよ」
「こちらこそ。それじゃあ」

わたしは手を振って、九兵衛くんを見送る。九兵衛くんとお父さんは、海の方へ歩いて帰っていった。

わたしは、睦お姉ちゃんの側まで戻ってくる。睦お姉ちゃんは、
「どう? 恋をするんなら、相手は人間にしておきなさいね」
と、力強く言った。

「なんか、実体験の伴ったような、力強いアドバイスだね」
「………」

睦お姉ちゃんは顔を真っ赤にする。

「ま、まぁその話はいいのよ。さぁ、そろそろお昼よ。今日は朝ご飯を食べられなかったから、きっと、明日香たちがおいしいお昼ご飯を作っていてくれるわ」
「そうだね! わたしもお腹空いた−!」
「さぁ、お昼ご飯まで、レッツゴー!」

空はすっかり晴れていた。今日も楽しく遊べそうだ。



巴は、去っていく2人の姉妹の背中を見守ったあと、海を見続けていた。
「やっぱり、2人ともタマちゃんのこと忘れてるよぉ〜」
タマちゃんを助けに行くのは、やっぱり自分になるのかなぁと、巴は思った。

-おしまい-

次へ / 目次へ

※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

葦葉製作所/トップ/小説目次