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2021.1.12
Ayacy's HP
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神緒のべるず 第2話 ガム工場見学ツアー -4-
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最後の部屋へ行く途中、里桜が西園寺さんに尋ねる。
「最後はどんなものが置かれているんですか?」
「それは…、見ていただいてのお楽しみです。」
「ふ〜ん、そうなんだ。楽しみだな〜!」
しばらく歩いたところに、その部屋はあった。
西園寺さんはポケットからカードを取り出すと、カードリーダにかざす。
「ピッ」と音が鳴り、今度は手のひらをかざす。
静脈の位置で本人を確認するとかいうやつか。かなり厳重な警備が敷かれているようだ。
「ピーッ」と音が鳴り、扉が開く。
「どうぞこちらへ」
西園寺さんに促されて、私たち2人は部屋の中に入った。
部屋の中は外に比べると光量が少なく、目が慣れるまでよく見えない。
「暗いよ〜」
「目が慣れるまで、少しお待ちくださいね」
と、言い終わるが早いか、「バチッ!」と強烈な音がした。音の方向を見ると、里桜がこちらに寄りかかってくる。
「ん? どうしたの…?」
里桜は寄りかかってきているというよりは、倒れ掛かってきている。意識を失っている…?
と、西園寺さんが視界に入る。手には…スタンガン!
そこで記憶が途絶えた...
誰かの叫び声で目を覚ました。
男の人の叫び声だ。
「ヒィィィィ〜!」
「オラ、ちゃきちゃき噛めやゴルァァァ〜!」
声の方向を見ると、白衣を着た男が、壁に縛り付けられている男の口にガムを放り込んでいる。
まるで拷問のような。
里桜は隣にいるのだが、どうやら壁に縛り付けられて、まだ意識が戻っていないようだ。
私も壁に縛り付けられていて、身動きが取れない。
横を見ると、パイプ椅子に座った西園寺さんがいた。西園寺さんがこちらに気づいた。
「あら。ずいぶん早かったこと。もう目が覚めちゃったのね」
「これは…、どういうこと…?」
「あら、簡単よ。新商品の開発のためにはね、どうしても、ユーザーの生の声が必要なのよ。私たち研究員が試食するだけじゃ、全然、足りない。上に言っても、試食ごときじゃ増員させられないとか言われてね。
そこで、見学ツアーを催して、積極的な反応を見せてくれた人を捕まえて、こうして強制的に試食してもらっているわけよ。こうして、新作のガムが出来上がるの。あなたもどんどんガムを試食して、新作ガムの人柱になりなさい」
そういうと、西園寺さんはガムを手にして私の口にぐいぐい押し付ける。
「ひっ…、いやっ…!」
西園寺さんは、白衣を着た男に指示を与える。
「おい、田中! 新作ガムを200種類、奥の倉庫から持ってきておくのよ」
「はっ!」
白衣の男は裏口から出て行った。
「ホラホラ、今日のノルマはあと300個よ。300個試食して、全部の感想をしっかり、ちゃ〜んと言うのよ。新製品の開発には犠牲はつき物なの。ホラホラ、私のすばらしいガムの世界に貢献しなさい!」
口の中にガムが入る。甘すぎっ!
甘すぎなのに、さらに10個くらいガムをわしづかみにして口の中に入れられる。
なんでこんなに甘いのっ!?
さらに別のガムもつかんで、口に入れようとする。
「や、やめて…」
まさか、一瞬気を緩めたがために、こんなことになるなんて。
あの会議室で、もう時間が遅いから帰りますと言っておけば…。
「ピッ、ピッ、ピッ…」
どこから機械的で断続的な音がする。どうやら私のポケットに入ったボールペンから音がしているらしい。
もしや、助っ人が来てくれる? 助かるの?
パパパパパパッ…
パリーン、ガシャーン
キャーッ!
パパパパパパッ…
ドアの外より、マシンガンを連射している音と、ガラスの割れる音、人の悲鳴が聞こえてくる。
まさか、助っ人って、あの人を呼んだのかな…?
そりゃ光大朗さん、ちょっと高くついちゃうんじゃないかなぁ。
「ピリリリリリリ」と壁についていた通信機と思われるものが呼び出し音を鳴らす。
西園寺さんが出る。
「何事?」
「…」
「な、なんですって! 警備員はどうしたの?
え!? 全滅!? いったい何なのよ!」
すると、ドアからものすごい音がする。
外側からマシンガンの連射が行われたようだ。
警備システムが壊れ、ドアが開いた。
「はい、助けに来たわよ〜」
神緒 睦(むつみ)。私の遠い親戚で、神社で巫女を勤める傍ら、こうして平気でマシンガンをぶっ放す危険極まりない人物である。

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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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