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2021.1.12
Ayacy's HP
2021.1.12
Ayacy's HP
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神緒のべるず 番外編その1 疑似マルチコア -5-
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屋上へ到着して、私はあることに気付いた。
大量のマグネシウムがここにあるわけだが、それに火を付ける手段が無いじゃないか!
火を付けられなければ、光は出せないし、目立てない。化学準備室なら、マッチくらい たくさん置いてあったじゃないか! 私のバカっ! どうしよう。もう時間がない!
仕方ない…。奥の手を使うか…。
私が制服の内ポケットを探ると、そこにはピンク色の背景にかわいいキャラクターの 描かれた封筒に入れられた、1枚の赤いお札が入っていた。
このお札は、本来、目標物………それは一般の物質的なものでも、オカルトで霊的な モノでも構わない………にぶつけて爆発させ、ダメージを与えるためのものである。
今回はこのお札を、この大量のマグネシウムへの引火のために使うことにする。
たしか、コレくらいかな…。
私はお札に注ぎ込む霊力の量を感覚で調整する。普通は、目標物に大ダメージを与えることだけを考えるため、フルパワーの霊力を注ぎ込むことしかしないのだが、ここでフルパワーを出してしまったら、どうなるかわかったもんじゃない。
私は慎重に、これまでの修行の時に注ぎ込んだパワーの数十分の一くらい、ゆっくりと しっかりと霊力を注ぎ込む。日頃、姉から受けている修行がこんなところで役に立つなんて……なんて、皮肉なことだろう。
普段意識しないでやっていることを意識しているせいで、へんに緊張する。額にじっとりと、汗が滲んでくる。
汗が頬を伝って首にまとわりつくのが気持ち悪い。
汗が目に入ってきてしみる。
髪の毛の中とか、チョー蒸れてる。
よし、これくらいで良いだろう。
準備は整った。いつでも来い。お姉ちゃん!
私は精神を研ぎ澄ますと、姉が放つ霊力と、空を飛ぶための神具が放つエネルギーの探知を始める。来た! 距離は 1km くらいか! 肉眼でも確認できるはず!
来たっ! 見えたっ!
お姉ちゃん! ここだよっ!
一瞬の精神統一。
私は人差し指と中指の間に赤いお札を挟み、頭上に掲げる。
私の足元を中心に、半径2メートルくらいの大きさの赤い魔方陣が浮かび上がりぐるぐると回り始めることで、霊力の充填を教えてくれる。
そして「えいっ」と一声掛け、最後にお札の「式」の起動のための霊力を力一杯注ぎ込み、屋上の床に蒔いておいたマグネシウムに思いっきり叩き付けた!
ボンッ!
ボンッ!ボンッ!
ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!
ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!
ひっ! ひっ! 何コレっ!
マグネシウムは化学の実験で見たときとは違う、連鎖的で爆発的に光りを放っている。
それと共に物凄い大きな音が鳴っている。そして、
ドーンッ!
という音と共に、屋上の床に大きな穴が空いてしまった。
や…ヤバッ…どうしよう…。
と、そこへ大慌ての表情で降りてきた、姉。
ランドセル大の飛行装置と、武器としてのマシンガン状の装置、そしてトレードマークでありユニフォームである巫女服。私の姉であり母代わりであり、厳しい師匠でもある睦お姉ちゃんの登場だ。
「か、楓ッ! 敵はどこっ!? この穴は敵が空けたものね」
私の頭は大混乱。姉が降りてきて何やら叫んでいるけど、意味は頭の中に入ってこない。
パニック。パニック。もう、パニック!
「ど、どうしたの楓! もしかして敵に精神をやられたの!?
なんてことを…」
そう叫びながら、穴に飛び込もうとする姉。私は慌てて袖を掴み、「待って…」と小声で、かすれた声でつぶやく。いや、これでも精一杯叫んでいるつもりだ。
そんな様子を見て不審に思ったのか、
「楓? どうしたの? どこか具合が悪いの…?」
ここまで私のことを信用して、心配して、駆けつけてきてくれた姉を、私は騙してしまっていたなんて…。屋上の床を破壊してしまうという大惨事を起こしてしまった罪悪感と、姉を騙してしまった罪悪感で、私の心は今にも潰れそう…。
私は自分のブレザーの胸のところをぐっと掴む。姉が「どしたの? 苦しいの?」と私の顔をのぞき込んだところで、
「ごっ…ごめんなさいっ!」
と、なんとか声に出すことができた。
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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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