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2021.1.12
Ayacy's HP
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神緒のべるず 第17話 プリンセスの休日 -2-
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「それじゃあ、何をして遊ぼうか。王女様の国では、子供はどうやって遊ぶの?」
「王女様ではなく、エリカ様と呼んでくれ。おぬしのことはなんと呼べば良いのじゃ?」
「楓だよ」
「よしわかった、楓。…ただ、しかし、わたしは、外で遊ばせてもらえないのじゃ。仕方なく、城の中で従者とともに、かけっこばかりをしておる」
「そうなんだ!それじゃあ、このお庭の端っこから端っこまで、かけっこをしよう!」
そんなわけで、かけっこが始まったのだが、エリカ様の従者相手のかけっことは、さっきのような理不尽なものだったわけだ。
「そろそろ、かけっこも飽きてきたぞ。そろそろ、この国の遊びを教えるのじゃ」
「そ、そうだねぇ。とは言っても、わたしもお姉ちゃんの修行ばっかりだしなぁ…。どうしようかなぁ…」
そう考えていると、地面を何かがぴょんぴょん跳ねているのが見えた。「あ、あれは…」と楓が言いかけると、
「あれはカマキリじゃな! 日本のカマキリは小さくて、ぴょんぴょん跳ねるんじゃのぉ!」
エリカ様が追いかける。
「ち、違うよ。それはバッタ…」
楓の声は届かない。
「カマキリじゃ!カマキリ!ぴょんぴょん!」
エリカ様はそう言い、地面に腹ばいになって、日本カマキリ(注:バッタ)の真似をして、ぴょんぴょん跳ねる(跳ねた気になっている)。
「うわぁ、白いドレスが泥だらけ…」
密かに、白いドレスにあこがれていた楓は、事態の深刻さとエリカ様の気楽さに、戸惑っていた。
「すまんすまん、つい、やってしまった」
エリカ様は全然すまそうな顔なんかせずに、そんなことを言ってきた。
睦によって光大朗が呼び出され、白いドレスは即日クリーニングに出されることになった。
光大朗は「うちの、洗濯が得意な助手さんに、洗ってもらうか…」と言いながら、泥で汚れたドレスを抱えて帰って行った。
ドレスは、明日香と里桜が、真っ白にしてくれるだろう。
その間、エリカ様には何を着ていてもらおうかなぁ。
睦がそんなことを悩んでいると、エリカ様は
「おぬしが着ているような衣装を着てみたいぞ。その白い服と赤いスカートみたいなのは、なんというのじゃ」
「巫女装束ね。ちょうど、楓と同じくらいの背格好だし、楓のやつを貸してあげるわ。いいでしょ?楓」
「いいよ。」
楓の了承を得て、エリカ様は巫女装束に着替えた。
「おお、これが日本っぽい衣装なのかのう!?」
「そうよ!ジャパニーズカルチャーよ!」
睦におだてられ、エリカ様はなんだか良い気分になった。
「良い服を身につけたところで、そろそろ腹が減ってきたのう」
そういえば、と睦が時計を見ると、もうお昼に近い時間だ。
「そうね。そろそろお昼にしても良い頃ね。エリカ様は、何を食べたい?」
「そうじゃのう…。国におるときは、城の料理に飽きていたし、日本に来てからもホテルの料理だけだし、そういう料理にはもう飽きたところじゃ」
「そうなんだ、そういうのに飽きたんだ」
なるほど。朝の光大朗の汗の正体は、ホテルの料理を食わせたせいで出費がかさんだためのものだったのか…と察しつつ、今日のお昼は何が良いかを考える。
「ハンバーガーというやつじゃ!ハンバーガーというやつを食べたい!」そういきなり叫び出すエリカ様に、ちょっと睦はビックリしながら「なんでハンバーガーなんかを…?」尋ねた。
「我が国にも最近、アメリカのハンバーガーの店ができたのじゃ。じゃが、わたしが従者たちにハンバーガーを食べに行きたいと頼んでも、誰も食べに連れて行ってくれないのじゃ。だから、今日こそがハンバーガーを食べに行くチャンスなのじゃ」
なるほど。そういうことか。睦は納得した。
「それじゃあ、駅前のハンバーガーショップに行きましょう。楓も、一緒に行くわよ~! 巴はどうする?」
「あたしはもうちょっと宿題を進めておきたいから、帰りにコンビニでお弁当か何かを買って来て~」
「それじゃあ、三人で行こうかしらね」
睦は、楓とエリカ様を連れて三人で、駅前のハンバーガーショップに行くことにした。
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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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