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2021.1.12
Ayacy's HP
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神緒のべるず 番外編その4 真・疑似ごみ箱 -4-
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いかにも睦姉さんらしい回答を聞いてから時が経ち、今は正午すぎ。
太陽は頭上まで上がり、あたりの温度をジリジリと上げている。
神社の庭はシーンと静まりかえり、中央に、例の箱が置かれていた。矢印の点滅はとても早い。そして、今にも中から何か出てきそうな雰囲気だ。
「そろそろね…」
「うん」
私はゴクリと唾を飲み込む。箱の中から感じられる霊力が極限まで高まっていくのがわかる。いよいよだ…!
箱の中から黒い煙がモクモクと、上がった。10メートルくらいの高さまでモクモクと上がると、煙は、なんとなく、人のような形を形成しはじめた。
耳や鼻に相当する部分がとがっているように見える。口や目に相当する部分は、赤く光っているように見える。
これが、そこら中に病の素をばらまく、悪魔の化身ってやつか…。
煙の形が、腕を振り上げるような形に変化する。
来るっ……!
そこですかさず、睦姉さんが赤い札を投げた。
ヒュッ!という風切り音とともに、すごい早さで、突き刺さるように赤い札が煙に突っ込んでいく。
御札が煙の中央に突っ込んでいった。よし! 命中だ!
そう思った瞬間、煙の腕は、睦姉さんのいた位置に振り下ろされた!
「えっ!?」
思わず私は声を上げる。すごい土煙。御札の飛んでいった方向を見てみると……御札は煙の背後に突き抜けていた。
そうか!相手は固体ではない!気体なのだ! だから、御札を投げても反応しないから爆発せず、突き抜けていってしまうのだ!
「こ、これって、マズイんじゃ……」
そう思っていると、睦姉さんの声がする。
「楓! 上!」
私は上を見ず、その場をすばやく離脱する。案の定、さっきまで私のいた位置には、先ほどとは別の、煙の腕が振り下ろされていた。いや、煙で作られた触手といった感じか。
睦姉さんの方も、さっきの攻撃からはうまく逃げていたようだ。しかし、この煙のバケモノとどう戦うべきか、作戦の立て直しを迫られてしまった。
「どうしたものかしらねぇ…」
睦姉さんの、冷静を保ちつつも、少し焦ったような声が聞こえてくる。私も必死に考えるが……
「これを使って!」
母屋の方から、巴姉さんの声が聞こえる。そこには、変わった形をした羽の付いた、扇風機みたいな道具が握られていた。
ほいっと、私のほうに投げられる。反射的にキャッチする。
これは……神具?
そこへ、巴姉さんの声が聞こえる。
「それは! 薬の調合の時に使っていた扇風機なんだって! たぶん、その悪い煙も吹き飛ばせるはずよ!」
「わかった! やってみる!」
私は扇風機に思いっきり霊力を込める。すると、扇風機が回り始めた。
ぶぉぉぉぉぉぉっ!
すごい勢いで風が巻き起こり、あたりの土埃を巻き上げる。同時に、悪魔の化身を構成していた煙の形も変化し、不安定な形になる。
そこですかさず、巴姉さんの声がする。
「睦姉さん! その赤く光っているところ! そこを狙って!」
「わかった!」
睦姉さんが、煙のあった場所の中心に見えた赤い光に向かって、赤い御札を投げる! 赤い光に御札がぶつかると、ものすごい閃光が放たれ、あたりは激しい光に包まれた———。
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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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