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2021.1.12
Ayacy's HP
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神緒のべるず 第17話 プリンセスの休日 -4-
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スーパーの二階は、洋服の売っているお店になっている。
安っぽい店内ミュージックとは裏腹に、色とりどりの様々な種類の服が並び、エリカ様の興奮も絶頂である。
「ほぉぉぉ!すごいのぉ。あっちにも、すごいのぉ。」あちこちの商品をグイグイひっぱりながら見てまわるエリカ様。
「ま、待って、エリカ様…」追いかける楓。さすがに疲れてきた。
「ふぅ…。まぁ、食べ物と違って、洋服はあちこち触っても、あんまり問題ないよね」
楓はそう思うと、エリカ様との追いかけっこはちょっと休憩してもいいかなと思い始めた。
お昼ご飯は良い感じで消化されてきており、店内は空調が効いており、なんだか心地よい。
ちょっと、眠くなってきた。
そうだ。あそこのベンチで休憩しよう。ちょっと、座るだけ。
楓は店内のベンチに座ると、そのまま、眠ってしまった。
楓が追いかけてこないことにエリカが気づいたのは、試着室に隠れてしばらく経ったときだった。
エリカがこの国に来て、同い年くらいの子供と本気で追いかけっこができたのは、とってもうれしくて新鮮な体験だった。
自分の国でも、城の中で従者と追いかけっこをするが、皆、本気で追いかけてくるわけではないことに、エリカは薄々感づいていた。
気合い半分で追いかけられることに、腹を立ててもいた。
しかし、大人の足で本気で追いかけられたら、すぐに捕まってしまうことも理解していた。
だから、同い年くらいの子供との本気の追いかけっこは、とても楽しいのだ。
でも、その楓が追いかけてこない。
おかしいな?と思い、試着室のカーテンを少し開けて、外を覗いてみることにした。
すると、黒いサングラスの男が、眠る楓を抱えて走り去っていくのが見えた。白いドレスがヒラヒラ揺れていた。
う~ん…。
楓が目を覚ますと、薄暗い部屋に寝かされて、手足をロープで縛られていた。
「どうやら目を覚ましたようだな。エリカ王女」
薄暗くてよく見えないが、半開きの扉の向こう側から、声が聞こえてくる。
「お前に恨みがあるわけではないが…、いや、無いわけでもないが、このまま死んでもらうことにするよ」
誰の声だろう?知らない声だ。
というか、相手は自分のことをエリカ様だと勘違いしているみたいだ。
パッと電気が点いた。部屋が明るくなる。
まぶしい。
「お、お前! エリカ王女ではないな!」
ようやく目が慣れてきて…、よく見てみると、そこにはテレビで観たことのある人がいた。
たしか、エリカ様の国の、大臣の人だ。
「ク、クソっ! なんで別のやつを連れてきたのだ!!」
「いや、だって、白いドレスを着ていましたし、本物のエリカ様なんて、オレ見たことありませんでしたし…」
「この愚か者めが!!」
大臣の人が、黒いサングラスの男を殴り倒す。
「く、くそぅ~、本物のエリカ王女を、改めて誘拐し直さねば…。で、お前はどうするか…!なんでエリカ王女のドレスを着ているのだ!?」
大臣の人の恨みがましい目が楓に突き刺さる。
「そんなことを言われても…。成り行きだよ!」とりあえず弁明してみる楓。が、大臣の人は、それで解放してくれるのかな。
「そんなことはどうでもいいか。お前も一緒に始末してやる!」大臣の人が叫ぶ。うわぁ、ピンチだよぉ!
「はい、そこまで~!」
ゆる~く、でも、重い声が部屋に響く。
お姉ちゃんの声だ!助けに来てくれたんだ!
扉が凄い勢いで開き、扉の近くにいた大臣の人が吹っ飛んでいった。
「最近暑いからと思って、小型のコレを持ち歩いていたんだけど、こんなことに役に立つとはなぁ」
お姉ちゃんの手には、小型の扇風機みたいなのが握られてる。よくわからないけど、あれで助けてくれたのかな?
開いた扉の向こう側を見てみると、部屋の中の物がめちゃくちゃに散らかっていて、何人かの人が倒れていた。
「エリカ様がね。あんたがさらわれたのを見て、私に知らせてくれて、それで、後を追っかけてきたってわけ。
まさか、人さらいの黒幕が、エリカ様のところの大臣だったとはねぇ。とりあえず、コイツら全員縛り上げて、後の細かいことは光大朗に任せておきましょう」
そういうと、お姉ちゃんは私の縄をほどいてくれて、代わりに気絶した人達と大臣の人を縄で縛り上げて、私を連れて脱出した。
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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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