Written in Japanese(UTF-8)
2021.1.12
Ayacy's HP


/葦葉製作所/トップ/小説目次

神緒のべるず 番外編その2 疑似クラウド -2-



前へ / 目次へ
 「うちの神社でも、クラウドを導入しようと思うの!」

 夕飯を食べているとき。そんな声が聞こえてきた。
 我が神社で巫女を務める上の姉が言い出したのだ。

 またか…。姉の悪い癖が出た。姉は悪い意味で好奇心旺盛なので、なにか心に残るキーワードを聞くと、とりあえずやってみたいと言い出すことがあるというわけ。
 私はうんざりしつつも、いちおう、聞いてみることにする。

 「そ、そうなんだ…。
  で、クラウドって何だか知っているの? お姉ちゃん」

 「う〜ん、よくわからないけど、なんかすごいモノなんでしょう。この前、クイズ番組を観ていたときにやっていたCMで、そう言っていたんだから!」

 やっぱりだ。よくわからないで言っているんだ。
 ちなみに我が神社の「IT」とは、せいぜい、上の姉(この姉のこと。長女だ)が神社のホームページを開設していることくらいだ。しかも、プロバイダのホームページ領域に。
 この程度のことで「クラウド」が必要になるとは、到底思えないんだけど…。

 「お姉ちゃん、そのクラウドで、何をしようとしているの?」
 「う〜ん、うちのホームページを、もっとすごいものにできるかなぁ…って。そしたら参拝客もたくさん来て、お賽銭が、もっともっと、入るかも!」

 姉よ! ”すごい”って何だ! 何を”すごい”ことにするのか、詳しく教えてくれ。いいか、姉よ。Webサイトの価値はコンテンツ(中身)だ。まずは内容を充実させるんだ。あるいはブログやツイッターで効果的に宣伝するとか……。

 しかし姉の目は真剣そのものである。よくわからん根拠を元に、よくぞそんなに自信たっぷりの発言ができたものだ。

 仕方ない。この姉の目を覚まさせるには、何かしないといけない。
 う〜ん。



 翌日の高校のパソコンの授業中は、昨日あんなことを言っていた姉を諦めさせるための作戦立案時間に充てられた。何か良い方法はないだろうか…。

 先生の話を聞き流しながら、私は目の前の机の上に置かれたパソコンのキーボードをカタカタとたたき、適当なキーワードでググってみる。
 すると……

 「疑似クラウド ——
  アナタの企業では、もうクラウドサービスは導入しましたか?」

 これだ! このジョークソフトなフリーソフトを使おう。
 私は日頃の厳しい「姉からのしつけ」の腹いせに、イタズラがてら、クラウド導入?を あきらめてもらう作戦を思いついた。



 私は帰宅すると、さっそく姉に、さっき見つけたフリーソフトを紹介してみることにする。

 「たっだいま〜♪」
 「あら、楓。おかえり。どうしたの? なんか嬉しそうね」
 「うん、お姉ちゃん。昨日、クラウドを導入したいって言っていたじゃない。だから、良い物を見つけてきたんだよ」
 「へぇ、もう見つけてきたんだ。早いわね。で、どういうものなの?」
 「ホラ、お姉ちゃん、これ。クラウドの体験が気軽にできるっていうサービス。『疑似クラウド』っていうの。これを使ってみて、クラウドを導入するかどうか検討してみたらどうかな、かな?」
 「う〜ん、疑似…?、クラウドね。ちょっと試してみようかな。ありがとう。楓!」
 「うん、じゃあ、あとで感想を聞かせてね」

 よし。うまく引っかかってくれた。
 私は浮かびそうになる怪しげな笑みを必死にこらえながら、急いで自室に戻る。あとは、姉が疑似クラウドを試してみて、なにやらわけがわからなくなって、クラウド導入なんてあきらめてくれるのを待つだけだ。



次へ / 目次へ

※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

葦葉製作所/トップ/小説目次