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2021.1.12
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神緒のべるず 第15話 黒猫の恩返し -5-



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「ここから少し、歩くんですみゃあ」

気付くと、空がピンク色の雲に覆われている場所に居た。
足下は黄土色の固い地面で、所々に亀裂が入っているのが見える。枯れ草のようなものが、ところどころに見える風景が、なんとなく「荒野」という言葉を連想させる。

「付いて来てほしいですみゃあ」

あたしは言われるがままにタマちゃんに付いていくことにする。
気温は、暑くなく寒くもなく、ちょうど良い。空は明るく感じるが、ピンク色の雲が完全に空を覆い尽くしており、どの方角に太陽があるのかはわからないが、もしかしたら太陽なんて存在しないのかもしれない。何せ、ここは猫の国であって、あたし達が暮らす世界とは違うのかもしれないのだから。

少し歩くと、ゆっくりと流れている、これまたピンク色の川のようなものが見えた。いや、川なのかどうかは分からない。なぜなら、向こう側が見えないから。

「この川を渡れば、ボクの生まれ故郷に到着ですみゃあ」

やっぱり川なんだ。タマちゃんの言うことを信じ、渡ってみることにする。
川の流れている部分に足を踏み入れる。くるぶしくらいのところまで、水に浸かった。ちょっと冷たい。
流れは非常に緩やかなようだ。流される心配をすることはなく、安心して進んでいくことができた。

前を見ると、タマちゃんは「犬かき」ならぬ「猫かき」で、川を渡っている。
たまにこちらを振り返りつつ、あたしとペースを合わせながら泳いでくれているようだ。

川の中心に近づいて来ているということだろうか。水は、くるぶしあたりから膝のあたりまで上がってきている。
水の流れは変わらないので流される心配はないが、水の抵抗が大きくて、ちょっとだけ歩きにくくなってきた。
タマちゃんは、あいかわらず「猫かき」で泳いでいる。

「ねえ、あとどれくらいで着くの?」

あたしがなんとなく、尋ねてみると、

「もうちょっとで着きますみゃあ」

との答え。見た目では、対岸はまだまだ見えないんだけどなぁ。

「それより、お姉さん、ちょっと疲れているみたいですみゃあ。早く行かないとだめですみゃあ」

そのとおり。なんとなく、頭がフラフラしてきている。周りの風景もぼやけて見えるようになっているし………、これは過労なのだろうか。

「がんばって、ですみゃあ」

言われなくてもわかってるよ。
そんなことを思いながら、ズンズン進んでいく。気付くと、水は肩くらいの位置まで上がってきていた。
向こう岸は全然見えない。これ以上水が上がってきたら、あたし、おぼれちゃう…。

ふと前を見ると、タマちゃんがいないことに気付いた。
あれ、どこ?
そう思っていると、うしろから「みゃあ」という声が聞こえてきた。振り返ると、タマちゃんがこちらを見ている。

「ちょっと、後ろの方から、良くない気配がするみゃあ。ちょっと見てくるみゃあ」

うん、わかった。あたしはこのまま、真っ直ぐ進めばいいのね。

「そうですみゃあ。後ろから迫ってきているのは悪いヤツですみゃあ。くれぐれも、誰が来ても、何を言われても、話を聞いちゃダメですみゃあ」

そういうと、タマちゃんは後ろに戻っていった。

あたしは一人で川をズンズン渡っていく。
気付くと、川の水は首のあたりまで上がってきている。進んでいる方向は合っているのだろうか?
いや。合っているだろう。川の流れと垂直に進んでいることに変わりはないし、多分……。でも……。

タマちゃんの姿が見えなくなったことで、急に不安になってきた。
早く戻ってこないかな。後ろを振り返る。
後ろの方は霧がかかっていて、タマちゃんが居ると思われる方向は、よく見えない。改めて見回してみると、360°すべての方向にピンク色の霧がかかっていてよく見えなくなっていた。
急に心細くなってくる。

「タマちゃ〜〜〜〜〜ん! お〜〜〜〜〜〜い!」

川相手なので、当然、やまびこが返ってくることもない。自分が出した声以外、無音の状態だ。
っていうか、ここって川の中なのに、水の流れる音というか、ザーッていうような音が聞こえないのはなんでだろう。なんだか気味が悪い。
そう思うと、急に怖くなってきた。

タマちゃん! 早く帰ってきてよぉ!

神緒のべるず 第15話 黒猫の恩返し 挿絵そう思っていると、後ろの方から、何やら赤い固まりがこちらに接近してきたような気がした。霧が濃くなっているので、なんだかよく見えないが…。
何あれ!? ひょっとして、あれがタマちゃんの言っていた「悪いヤツ」なの?

あたしはとっさに懐よりお札を何枚か取り出し、思いっきり投げつける。

ドーーーーーーーン!

激しい音がして、同時に閃光が起きる。やったか!?
閃光が止んだ後、目をこらして見てみると………。

赤い影はなお迫ってきている。
こちらの攻撃は、避けられてしまったか?

あたしは立て続けにお札を投げ続ける。
そのたびに閃光が起きるが、赤い影が消える様子は全くない。
それどころか、向こうから光の粒みたいなものが飛んできて、あたしの体にポツポツ当たっている。イヤっ! 何コレ!

手持ちのお札の枚数は…!あと一枚! コレを投げたら、もう最後っ!
あたしは思いっきりお札を投げつける!
ドーーーーーーーン!という音と共に閃光が巻き起こる。
どう? やった?




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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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