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2021.1.12
Ayacy's HP
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神緒のべるず 第4話 温泉探偵 -3-
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3日目の朝だ。
作戦を練り直さねばならない。
ところで、朝から従業員の人たちの動きがあわただしい。何かあったようだ。
光大朗さんが女将さんから情報を仕入れてきた。
なんでも、この宿に脅迫状が届いたらしい。
女将さんはハッキリとしたことは言っていなかったそうだが、どうも、脅迫の対象は女将さん自身らしい。誘拐予告のような内容の脅迫状らしく、それで従業員の方達が落ち着かない様子でいるらしい。
「これは、丈さんの正体を調べるどころではなくなってきたな」
光大朗さんの意見に私たち2人は賛成し、作戦の遂行は一時中断して、女将さんに話を聞きに行くことにした。
「はい、今朝のことです。この手紙が矢文で」
そういって、一枚の手紙を差し出した。
内容は、女将さんに恋心を抱いているから、明日の夜に連れ出すぞ、ということ。それを邪魔した者には容赦をしないぞ、ということが書かれていた。
この手紙がくくりつけられた矢が、廊下に刺さっていたという。それを発見した従業員からウワサはあっという間に広がり、従業員の間には不安が広がっているという。
「当旅館の営業を妨害するためのものだと思うのですが…」
この旅館に恨みを持つ何者かの仕業か、あるいは可能性は低いだろうが近隣の旅館による嫌がらせとか。
とにかくこういうのは無視するのに限るだろうが、従業員の間に広まった不安は、しばらくの間は拭いきれまい。
光大朗さんが「いちおう仕事柄こういったことを聞くんだが…」と断ってから、質問を始める。
「こういった恨みを持たれるような心当たりは?」
「特には…。いえ、こういった職業ですもの。誰から恨みをもたれても不思議ではないと言えるかもしれません」
「確かに、旅館という場所だからな。たくさんの人が訪れる。最近、お客さんとの間で大きなトラブルはなかったのか?」
「いいえ、特にこれといって大きなものは…」
光大朗さんが「うーむ」と言って悩んでいる。現状で得られている情報からでは、何かを推測するのは無理なようだ。
「でも、とりあえずご安心ください。お客様に被害が及ぶことはありません。見回りは丈さんが行ってきてくれていますし」
女将さんはそう言い、なんとかその場の雰囲気を回復させることに努める。
なんだか居づらい雰囲気がこの場を支配している。
ちょっと、この場には居たくないな。ということで、
「わ、私も外を見てきます。無料で宿泊させていただいているわけですし…。丈さんをお手伝いしてきますね」
「お、そうか。気をつけて行って来いよ」
光大朗さんが軽く送り出してくれる。女将さんはあわてて
「え? ちょっと、女の子1人で行かせて大丈夫なんですか?」
と光大朗さんに聞いている。
「ああ、あの子なら大丈夫ですよ。俺なんかよりはよっぽど、こういう場には慣れてますし…」
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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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