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2021.1.12
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神緒のべるず 第16話 夏だ!海だ! -5-



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九兵衛くんを自室に匿ったままで、わたしは食堂室で夕食。
この夕食を半分残して、自室に持ち帰り、九兵衛くんに食べてもらおう。問題は、それを怪しまれずに、どのように行うか、だ。

睦お姉ちゃんは何にでも首を突っ込みたがる。睦お姉ちゃんに気付かれたらアウトだ。
巴お姉ちゃんは、首を突っ込むということはないだろうが、へんに勘が鋭い。気付かれたら後々、やっかいなことになりかねない。
明日香さんは世話焼きのようだが、プライベートのことにまで関わってくることはないだろう。
里桜さんはどうだろう? きっと、「熱はない? 体の調子が悪いの?」などと言って、部屋まで付いてこられてしまったらやっかいだが、そこは遠い親戚という間柄。わたしは年頃の女の子ということで、ちょっと繊細な女の子気分を演じてみよう。たぶん、里桜さんはそういう演技に弱い。

睦お姉ちゃんが席を立った。おそらく、トイレにでも行くのだろう。しばらくは帰ってくることもあるまい。
姿が見えなくなったところを見計らって、席を立つ。何事?と、他の3人がわたしの方を振り向く。

「あ、あの…。とってもおいしいんで、あとは部屋に帰ってから食べるね」

その場にいた全員に見つめられ、頬に汗がじとーっと流れる。まずい、バレたか…? っていうか、この、わたしが誰かに許可を求めなければならなそうな状況はなんだ!? そのままお皿をもって立ち去れば良かったのではないか?

すると巴お姉ちゃんはこちらをチラリと見てニヤっと口を歪ませると、「そう。転ばないように、お皿を運ぶのよ」と言ってくれた。
ふぅ。追求はナシみたいだ。
里桜さんが「これに載せて運んでね。転ばないようにね」お盆を持ってきてくれた。みんな、やさしいなぁ。

食べ残しをお盆に載せて、自室へ戻る。ドアには鍵を掛けた。OK。
九兵衛くんはお腹を空かせて待っていたようだが、まさか夕食の半分が食べられるとは思っていなかったのだろう。うれしそうに、「それくれるの? ありがとう!」と、はしゃいでいた。
はしゃいだ九兵衛くんもまた、カッコイイ。わたしは「うん、もちろん」と頷く。
窓の鍵も、締まっている。OK。

九兵衛くんは夕食の残りを食べ始めた。
わたしはそれを、隣でニコニコしながら眺めていた。

食べさせてあげて「あーん」とか、やるべきだろうか。南の小島の屋敷の一室に、知り合ったばかりの男女が2人きり。このシチュエーションは、ヤバイ!
ヒトナツのオモイデ…。
わたしは、心臓の鼓動が急に早くなるのを押さえつつ、次はどんなことをしゃべろうか、九兵衛くんが何か話してきたら、どんなことを返そうか、ひたすらシミュレーションを繰り返していた。

と、クローゼットの中がガタッ!と鳴った。
だ、誰だっ!

わたしがビクッとなるのを見て、九兵衛くんが「なに?」と首をかしげる。
わたしはそーっとそーっと、クローゼットに近づき「誰かいるの!?」と話しかける。すると…、

「にゃー」

猫の声が聞こえてきた。

「なーんだ、猫か」と安心するわたし。
「猫なんて、この屋敷の中にいるんだねぇ。どうやって入って来たんだろう」と不思議がる九兵衛くん。

ん? 猫?

「こんな場所に、猫なんかいるわけ、ないじゃない!」

わたしは思い切ってクローゼットを全開にする!

「にゃっ! バレたにゃっ!」

形は猫だが…、人語を解し、人語を操る猫らしきモノ。コイツは猫ではない。猫又だ。
しかも、巴お姉ちゃんが最近飼い始めた、式神の「タマちゃん」。つまりアレだ。巴お姉ちゃんは、すべてを察した上で、スパイを忍び込ませていたってわけか。
なんてこった。

「そ、それはそうと……、にゃっ!!!!」

タマちゃんが何かをしゃべろうとする。それ以上、しゃべらせてたまるか!!
わたしはタマちゃんの首の部分を掴むと、宙に持ち上げる。

「な、なにをするんだにゃーー!」
「悪いんだけどねぇ。猫ちゃん。このまま、何も見なかったことにするか、それとも、故郷に強制送還されるか、選んでねッ!!」

タマちゃんの故郷とは地獄である。故郷に強制送還されるとは、すなわち、あの世への往復旅行を楽しんでこいという意味である。

「だ、誰にも言わないにゃぁ! 誰にも言わないにゃぁ! 大事なことだから2度言ったんだにゃあ! そんなことより……、ぎゃぎゃーーにゃーー!」

わたしは手に力を込める。「本当に?」「本当だにゃぁ、それより、先をしゃべらせて欲しいにゃぁ!!!」

タマちゃんの悲痛な叫びが聞こえてきたのと、九兵衛くんが「ちょっと、やめようよ」と制止してくれたので、わたしはタマちゃんを解放することにする。

「ふぅ。ふぅ。楓は猫殺し未遂だにゃぁ。酷い目にあったんだにゃぁ。どうして、こういう酷い目に遭うのはオイラばっかり…」
「それで! さっきは何を言おうとしていたの?」

わたしは、タマちゃんに先を促す。

「そうそう。そうだにゃぁ。どうして、この部屋に、海坊主の幼生がいるんだにゃあ?」
「海坊主の…ヨウセイ…?」

わたしはなんのことだか、よくわからなかった。
海坊主って、妖怪よね。ヨウセイって妖精? フェアリー?

「幼生って、子ども形態ってことだにゃあ。その男の子は、海坊主の子どもだにゃあ。もしかして気付いていなかったんかにゃあ? 恋は盲目ってやつかにゃあ。いてっ……ぅ!」

わたしはタマちゃんの額にデコピンをカマしてやる。うるさい!そのヒゲ全部抜いてやろうか。
九兵衛くんの方をチラリと見てみる。頬をポリポリ掻いている。

「べ、べつに、秘密にしていたワケじゃなかったんだ。あの場所は…なんていうんだろう。居るだけで心地よくて。楓ちゃんとも出会えたし」

あの場所が心地よい…。わたしにはなんとなく、心当たりがあった。あの場所で以前に起きた、大量の霊力エネルギー漏れ。今ではほとんど無くなっていたと思っていたけど、残留霊力エネルギーが、まだかすかに残っているということだろう。妖怪は霊力エネルギー漏れしたところに多く集まってくると聞く。九兵衛くんも……、そういうことか。

わたしが色々考えながら黙っていると、九兵衛くんが焦ってしゃべり出す。

「あ、あの。騙そうとしていたわけじゃないんだ。一日でいい、一日でいいんで、今日はここに隠れていても、いい?」

ああ、そうだ。なにかしゃべらなくちゃ。

「わかった。一日だけだよ。どんな理由があるのか分からないけど……」
「ありがとう! 今日はここで、おとなしくしているね」

九兵衛くんがうれしそうな顔をする。わたしはなんだか、複雑な気持ちになっていた。


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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