2022.7.18
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神緒のべるず 番外編その5 疑似ダッシュボードPro -1-
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それは去年の夏の話。
うらめしい……。 うらめしい……。
食べ物の恨みは恨めしい……!
私、神緒 楓は、友達と海に遊びに行った。
そこで、私からこんな提案をした。
「あの島とここを往復して、早く帰ってこれたほうがパフェをおごるってのはどう?」
「それは面白いね」
同意してもらい、さっそく往復をして……
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私は負けたのだった。
そして、パフェをおごってあげることになってしまった。
うらめしい……。 うらめしい……。
食べ物の恨みは恨めしい……!
そして、今年の夏も、同じ友達と、同じ海に遊びに行く約束をした!
今年こそは、パフェをおごってもらいたい!!
「………というわけなんだけど、何か良いアイディアはないかしら?」
「そんなこと言われても、オイラ、海にはあまり良い思い出はないにゃ……」
そんなことを言いながら、半分困り顔の様な、半分ニヤニヤした顔を向けてくるタマちゃん。
こんなことを気軽に相談できるのは、我が家に居候しているしゃべる黒猫のタマだけなので、一応聞いてみたのだが、やはり聞く相手を間違えたか。
睦姉さんに相談したら、水泳の修業をしろとしか言わなそうだし、
巴姉さんに相談したら、「青春だねぇ」と流されてしまいそうだし。
「あ、そういえば! この前、昼寝をしようとして蔵に入ったときに、イイものを見つけたのを思い出したにゃ」
「ん? イイもの?」
パッと駆け出すタマちゃん。慌てて追いかける私。
タマちゃんは蔵の中に入っていった。
蔵に着くと、タマちゃんは1枚のビート板のようなものの上に乗っていた。
「これは泳ぐために使うものなんじゃないかにゃ? この蔵にあるということは、何か不思議なことができそうだにゃ。」
「たしかに、何かありそうね……。」
ビート板を手に取る。
表面は固いが、とても軽い。
表から、裏から眺めてみる。
どちらが裏でどちらが表かはわからないけど。
タマちゃんが乗っていた面は真っ黒だったが、反対側の面は白かった。
白い面には、何か文字のようなものが書かれているように見えるが、読めない。梵字かな? 私の知らない文字が書かれている。
試しに、大きな桶に水を張り、その中にビート板を入れてみた。
ビート板は水の上に浮いたが、特に何かが起きる様子はなさそうである。
「きっと、とても古いものだから、霊力が失われてしまっているのかもしれないわね。ということは…」
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その日の夜。私は、こっそりとビート板を神棚に置いて、奉納演舞というのを試してみることにした。
舞を奉納しますので、ビート板の力を充填してください、と、そういうことだ。
心を込めて。
手に鈴を持ち、部屋を一周。その後、再び部屋を一周しながら、手に持った鈴を動かす。北側の邪を払い、東側の邪を払い、南側の邪を払い、西側の邪を払い、さらに部屋をもう一周。
何度もやってきた動きだ。体が自然に動く。
手に持った鈴から、頭に付けた飾りから、音が出てしまう。本来は凛と音を出すべきなのだが、姉たちに気づかれてしまうのはマズいの、あまり音が鳴らないよう、そーっと動くように心がける。
そういえば、普段は和太鼓の音が鳴っているのだけど、今日はその音はない。なので、ちょっと寂しい。
舞が終わり、ビート板を神棚から取り出してみると、白い面に書かれていた文字が、うっすら青く光っているのが見えた。
うまくいったみたいね。
再び大きな桶に水を張り、その中にビート板を浮かべてみると……、スーッと、なかなかの速さで進んでいくことが確認できた。
「これは使えるわね! そうか、これはダッシュしてくれるビート板だから、ダッシュボードと呼ぶことにしよう!」
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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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