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2021.1.12
Ayacy's HP
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神緒のべるず 第15話 黒猫の恩返し -3-
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弥生さんは、自分のことが最近ヘン、と言った。頭がヘンと言った。
どういうことだろう?
「ヘンって言うか、最近、頭が重かったり、熱かったりすることが続いているの〜。
かといって、風邪をひいているわけでもないみたいだし、頭以外におかしいところはないし、お医者様のところへ行っても原因は分からないと言われるし〜……」
なるほど、頭がヘンって、そういう意味か。
あたしはジュースを飲みながら、納得した。
「それで、もう、どうしたらいいかわからなくて、こういうのって、お祓いとかでどうにかなるのかなぁ、って思って、相談しに来たんです〜。
でも、相談相手が神緒さんで本当に良かった〜」
なるほどね。
でも、頭が重かったり熱かったりするのって、例のネコ耳を付けているからではないだろうか? と不思議に思う。
なので、それを言ってみることにする。
「それって、いつも頭に付けているネコ耳のせいじゃなくて?」
「へ? ネコ耳?」
弥生さんは、頭に手を乗せた。そして「なんのこと?」と首をかしげていた。
いや、今は着けていないじゃん。
……ん? いや、待てよ……?
「ちょっと、そのままの状態でいて」
あたしは、弥生さんにそう告げる。弥生さんは「あ、はい」と言い、頭に手を乗せた体制のまま、ぴたっと静止する。
あたしは目をつぶると、右手を弥生さんの頭上10センチくらいのところに伸ばし、心を落ち着かせる。というのも、あのネコ耳に見えたものって、霊障の一種なんじゃないかと思ったからだ。
手の先から、人間以外———霊的なもの———の存在を感じ取ろうとする。
黒い。髪の毛とは違う。特徴的な形をした存在の姿が感じられる。猫の耳の形をした2つの存在。これだ。
あたしは目を開けると、弥生さんにいくつか質問をしてみることにする。
「何かを頭に着けている、って自覚は無いのよね?」
「ええ、ないよ〜」
そうか、ではあれは、弥生さんが意識して着けたり外したりしているのではなくて、霊的な存在とあたし自身の波長が合ったときに見えていただけだったようだ。
そりゃそうか。あんなものを着けていたら、他の生徒が気付くだろうし、それ以前に授業中にそんなものを着けられるわけがない。弥生さん本人を含め、あたし以外の人には見えないのだ。
続けて質問する。
「最近、猫と関わった事ってない? 簡単なものでいいんだけど、猫を踏んじゃったとか、自転車でひいちゃったとか……」
「そっ、それってっ、タマちゃんのこと〜? うっ…うっ…」
そういうと、弥生さんの目に急速に涙が溜まってきた。
うるうる、と。
「タマちゃん………、ってうちの飼い猫だったんだけど、先月、突然死んじゃったの〜。
お母さんは、もう歳だったからしょうがないっていうんだけど……」
なるほど。となると、このネコ耳っぽいものは、弥生さんの元飼い猫の霊ってことになるのかもしれないな。
取り憑いている猫本人にしてみれば、守護霊のつもりだったのかもしれないけど………、これでは、弥生さんに迷惑をかけてしまっているだけのようだ。
ここは早々に、弥生さんと切り離して、猫さんにはあの世へ旅立ってもらうのが良いだろう。
こういうオカルト的なトラブル解決には、普段は姉か妹が取り組むことが多いが———ちょっと、考えてみる。
——姉に任せたとしよう。
姉の性格から考えて、弥生さんと猫さんの良好な関係など無視して、ぶっきらぼうに、それはもう攻撃的に除霊をしてしまうに違いない。
それは、猫さんにとって非常に可愛そうだ。
——で、次は妹に任せたとしよう。
妹の性格から考えて、………死に猫とはいえ、たぶん、飼いたい飼いたいとしつこく駄々をこねるだろう。
それはとても、面倒くさいことのように思えた。
ここは、穏便にあたしが処置をしてしまうのが良いだろう。
というわけで、あたしは弥生さんに再び「ちょっと待ってて」というと、台所の方へ向かった。
えーっと…お塩、お塩っと…あった。
あたしはお塩を適当に一盛り、小皿に盛ると、弥生さんの待つ自室へ向かう。
弥生さんは、またもテーブルの前にちょこんと座って待っていた。
あたしが「おまたせ」と言って、小皿をテーブルに載せると、弥生さんは「いえいえ〜」と、はにかんでいた。
デジャブっぽいものを感じたな。
「それで、このお塩は…?」
弥生さんが、当然の疑問を口にする。
あたしは、除霊の方法を簡単に伝える。
「この家のお風呂場を貸すから、桶にいっぱい、水を汲んで、このお塩を溶かして、その水で顔を洗って。
その後、腕を洗うの。腕を洗うときは、肩の方から指先の方に向かって、擦るように。決して逆に擦っちゃダメよ。
あと、気をつけて欲しいんだけど、水は桶の外に、一滴もこぼさないようにね。洗い終わったら、桶は風呂場に置いて来て」
弥生さんは、ちょっと不思議そうな顔をしたが、あたしが真剣な表情で伝えたのを見て、「うん、わかった〜」と小皿を持ってお風呂場へ行った。
あたしも見に行った方が良いだろうか? いや、やめた方が良いだろう。
あのお風呂は狭すぎるし。
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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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