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2021.1.12
Ayacy's HP
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神緒のべるず 第4話 温泉探偵 -4-
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旅館から外へ出て、建物の裏側に回ってみると、丈さんが壁や縁の下を見て回っていた。
爆弾などが仕掛けられていないか、いちおう調べているのだろう。
私は話しかけることにする。
「おはようございます。お寒いですね」
「ああ、お客さん、おはようございます。それにしても、こんなところでどうしたんですか?」
「いろいろ事情がありまして。私たち、今はタダで宿泊させていただいているんです。それで、何かできることはないかな…と思いまして。何かをお探しのようでしたら、お手伝いしましょうか?」
「いや、こんなことを手伝わせるわけには行かない。タダで泊まっていても、お客さんはお客さんですから。どうぞ、寒いのですから部屋にお戻りください」
そういって追い返そうとするので、食い下がる。
「それに、……昨日のこともありますから。
昨日は押入れに隠れて何か変なことしちゃった感じで…ごめんなさい。お詫びもかねて、お手伝いさせてほしいんです」
「そうか…わかった。
今朝のことは…、他の従業員たちの様子から、わかりますね? それで、軒下に不振なものがないかどうか、調べているんです。
今、あっちのほうから調べて、ここまでたどり着きました。悪いんですが、あっちのほうから調べてきてもらっていいですか?」
そういうと、丈さんが「あっち」の方向を指差す。
私は「わかりました」と言い、軒下を調べて回ることにした。
しばらく調べて回ったが、不振なものは何も見つからなかった。
やはり、ただ脅迫するためだけの手紙で、実際に危害を加える意図は何もないのだろうか。
「やっぱり、何も見つかりませんね」
しかし、丈さんの顔は落ち着かない。
「いや、もしかしたら旅館の中に不振なものがおかれているのかもしれません。これから、旅館の中を調べてみましょう」
そういって丈さんは旅館の中へ入ろうとする。
…が「ムッ」と唸った。
「あっちだ!」
旅館の裏側は山になっているのだが、その山をすごい勢いで登っていく。
「わ、私も付いて行きます」
「あんたはそこで待ってなさい」
「いや、行きますから」
私は丈さんに追いつく。
丈さんは走りながら私のほうを見て驚いている。
「あんた、その服装でよく俺の走りに付いて来れるな。普通、その格好で、しかも山道でこんな速さで走れるなんてありえないぞ? あんた、何者なんだ」
「ただのメイドの、ただのたしなみです。こういった山道には、ちょっと慣れているんで…。
それより、どうされたんですか? 急に走り出して」
「さっき、山のほうからキラリと光るものが見えて、こちらを狙っているのがわかったんだ。
あれはライフル銃か何かだろう。今回の件と関係があるかどうかはわからないが、とにかく危険だ」
「なるほど」
5分くらい走っただろうか。
「このあたりだったと思うんだが…」
と、丈さんが足を止める。このあたりで、光が見えたようだ。相手も移動しているということだろうか。
ふと、私が足元を見ると、そこには私と丈さんのものではない足跡があった。
「これ…」
「ウム、足跡だな。まだ新しい。」
2人がしゃがみこんで足跡をみている。
カサッと音がする。丈さんの後ろに銃で殴りかかろうとしている男がいる!
「うしろ! 危ないッ!」
丈さんは殴りかかろうとする相手に背を向けたまま、頭をすばやく後ろに動かして、相手に頭突きを食らわせる。
頭突きを食らわされた相手は、額を押さえてうずくまっている。まさか、反撃されるとは思わなかっただろう。
すると丈さんが「あんたの後ろにもっ!」と叫ぶ。
後ろからにゅっと手が伸びてきて羽交い絞めにされて喉にナイフを突きつけられる。
「ウッ、離してっ!」
「う、う、う、うるさいぃぃ! だ、だ、黙ってろぉ! そこのお前は動くんじゃねぇ」
「くっ…!」
羽交い締めにされている私を見て、丈さんは動けなくなっている。
「あなたたちの目的は何なの?」
「せ、せ、節子さんはなぁぁ! お、お、お、俺達のモンなんだよぉぉ…! じ、じ、じ、邪魔すんじゃねぇよぉぉぉ!」
本当に恋愛がらみだったとは。
「あの矢文以外に、何をしたの?」
「な、な、な、何もしてねぇよぉぉぉ。こ、こ、こ、こっから双眼鏡で節子さんを見てたんだよぉぉぉ」
「本当にそれだけね?」
「そ、そ、そ、そうだよぉぉ」
そこまで聞くと、私はふぅっと息を吐き、
「そう…それならいいわ」
ガッ!
足を思いっきり踏みつけてやる。
「い、痛でででででっ!」
ひるんだところに思いっきり肘鉄を食らわせた。そのままバッタリ倒れる。
昏倒したようだ。
まったく、甘いんだから。
丈さんが驚いた顔でこちらを見ている。
「あんた、強いな。何者なんだ?」」
「私はまぁ、こういうのは、慣れてましたから。というか丈さんこそ、お強いようで。何者です?」
「ふっ。お互い、言えない事情を抱えているようだな」
「そうみたいですね。お互い、詮索はしないことにしましょうか」
「ウイッス」
ふふふっと、私と丈さんは笑った。
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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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