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2021.1.12
Ayacy's HP
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神緒のべるず 第7話 お姉ちゃんの誕生日 -4-
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楓ちゃんが睦にプレゼントを渡す日だ。
私はその様子を見てみようと思い、神社の母屋の外から、中の様子をうかがっている。
しばらくすると、楓ちゃんが帰ってきた。
ガラガラガラと玄関の開く音がして、「ただいまー」と元気よく楓ちゃんの声が響いている。
そしてさらにしばらくすると「ジャーン!」という楓ちゃんの声がした。どうやら、プレゼントを渡したようだ。
その後、睦の「すごいじゃない! 見直したわ!」という声が聞こえてくる。
どうやら、サプライズプレゼントは大成功だったようだ。
私は、一人、満足げにほほえんだ。あぁ、良いことをしたなぁ。
…と、私が中の様子に気を取られている間に、後ろに人が来ていた。
「ポン」と肩を叩かれる。
「あ、あの…、何をやっているんですか?」
後ろを振り向くと、そこには怪訝な表情をした巴が立っていた。
一人で微笑んでいる私は、まるで不審者みたいに思われてしまったかもしれない。
私は、あわてて事情を説明する。
すると、巴は
「へぇ、楓がそんなことを! あの子も成長したんですねぇ」
と、遠い目をしていた。
巴はこれまで、楓ちゃんの起こしてきた数々の騒動の後始末に追われることが多かったと聞いている。妹の成長を感じることができて、うれしいのだろう。
「…で」
そういうと、今度は巴が何やら険しい表情をする。
「楓が誕生日プレゼントをあげたっていうのに、あたしが何もしないなんて…おかしいですよね…」
そう言って、考え込んだ。
たしかに。それもそうかもしれない。
「お金を欲しがっているからって、お金をあげるわけにもいかないし…」
巴がつぶやく。ああ、そういえば、昨日はそんな話題も出ていたっけな。
こりゃ、昨日の悩み事相談の再来か?と思っていた、その時だった。
母屋の中から、叫び声がする。
「かっ、楓? 楓っ!? どうしたの? しっかりして!」
睦の声だ。私と巴は顔を見合わせると、慌てて母屋の中へ飛び込んだ。
私と巴が居間へ行くと、楓ちゃんが倒れていた。楓ちゃんは、胸の前で手を握り、うんうんとうなされている。
睦は気が動転しているようで、楓ちゃんのことをひたすら揺すっていた。
私は叫ぶ。
「睦っ! 何があったの!?」
すると、睦は弱々しい声で言う。
「わ…私、その、楓からプレゼントをもらって…。
それで思い出したんだ。楓に、渡さなきゃいけないものがあったのを…」
睦の言葉に、私も、思い出す。
そういえば、武具の修理でタイムスリップしたとき、そこに居た一人のお姫様———おるるという、楓ちゃんにとてもよく似た少女———から、赤い石の付いた首飾りを預かって、楓ちゃんに渡すように頼まれていたんだっけ。
睦は続ける。
「それで、首飾りのことを思い出して、楓に渡したの。
そしたら、楓は喜んでそれを首からかけて………かけて………」
そのまま、楓は苦しんだ表情をしから、倒れてしまったということのようだ。
私は、
「それで、その首飾りはどうしたの?」
と聞いてみる。すると、
「首から外そうとしたんだけど……楓がすごく強い力で握ってて、外せないの…」
そう言って、楓ちゃんが胸の前で手を握っているところを指さす。
どうやら楓ちゃんは、首飾りの赤い石を、強く握りしめてしまっているようだ。
私が手を開かせようとしても、とても強い力で握られてしまっていて、開かせることができない。それに、楓ちゃんの体が…ものすごく熱い。呼吸は速く、苦しそうな表情を浮かべている。
様子を見ていた巴は、
「これは…、現代医学とかではどうしようもなさそうだし、救急車を呼ぶわけにもいかないよね…」
と冷静に分析する。すると睦が、
「じゃあ、じゃあ、どうすればいいのよ! 私が…私が、こんな首飾りなんか渡したせいで…!」
と叫びだし、頭を抱えだした。
そのあまりの落ち着きのなさに、私は、
「ま、まあ、呼吸はしているようだし…、少し様子を見てみましょう。ダメそうなら……、睦が持っているお札を試したりもできるでしょう?」
と言ってみる。すると、睦は、
「そ、そうね…」
と、ちょっと落ち着きを取り戻した様子で応えた。
もうしばらく、楓ちゃんが意識を取り戻すまで、ここにいることにしよう。
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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。
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