Written in Japanese(UTF-8)
2021.1.12
Ayacy's HP


/葦葉製作所/トップ/小説目次

神緒のべるず 第6話 ベストをつくせ -5-



前へ / 目次へ
用事を済ませて事務所へ帰ると、里桜が手紙を持って待っていた。
ついさっき、ポストに入れられていたものらしい。

中を見てみると、リアンのご主人様からの手紙で「リアンは立派に成長したようだから、すぐ引き取りたい」という旨が書かれていた。
この手紙は直接、事務所のポストに入れられたものなのだろう。どこかで、あの出来事を見ていたのだろうか。

リアンは、一瞬うれしそうな表情を浮かべたが、こちらを見て、少し寂しそうな顔をした。

「寂しくなるね」と、里桜が言った。
「そうね」と私は言う。ただ…、あんな出来事のあった後だ。いちおう聞いておかなければならないだろう。

「ところで…、今日、小犬を助けたのはすばらしかったんだけど…、普通、10メートルくらいの距離を一瞬で走れたりはしないわよね。どういうことか、聞いてもいいかしら」

すると、リアンは意を決してうなずく。

「はい。あの…、あまりたくさんのことはお話しできないと思うのですが、わたしが知っている範囲でよろしければ…。ご主人様からも、帰るときにはある程度お話ししても良いと言われていますので…」



「わたしは、実はこの星の人間ではないんです」

ちょっと衝撃の発言だ。色々と変わった人たちには会ってきているけど、宇宙人にあったのは初めてだろう。

「わたしの住む星——わたしたちはディアンと呼んでいるんですが——、そこでは、戦争が起きそうなんです。いや…、もうすぐ戦争が起きるんです」

聞くところによると、ディアンでは5つの名家があり、それぞれが栄えていた。しかし、星の資源が乏しくなるにつれ、名家間の争いが起きるようになってきたのだという。もうすぐ全面的な戦争に発展しそうというとき、リアンの頼りなさを見たご主人様は、避難させるか、あるいは何かを学んで強くなってくれたら…という思いから、地球へリアンを送り込んだらしい。

「実は、初めてお会いしたときは言えませんでしたが、できたら皆さんから空中で戦うテクニックを学んでこい、と言われていたんです。ただ…この星の人々を見る限りではそういうことができるようには見えませんでしたので、黙っていたんですが…、何か知っていますか?」

心当たりがないことは無い。たしか、睦たちと初めて出会ったのは、私たちが元々住んでいた島で起きたある事件のせいで、ド派手な空中戦をしでかしたのがときなのだから…。でも、あまりにも常識離れした出来事だったので、とりあえず知らないフリをしておく。

「えーっと、そうね…。たぶん、何かを勘違いしているのではないかしら」

私がそういうと、里桜も、苦笑いをしてリアンを見ている。

「そうですか…。でも、こうしてご主人様から戻ってこいと言われたということは、わたしが何かを学ぶことができて、頼りになる存在になれたということをご主人様に認めていただけたってことですよね」
「そうよ。それは間違いないわ」

私がそういいながらうなずくと、リアンはうれしそうに笑った。
と、ここで里桜は、

「手紙には『すぐ引き取りたい』って書いてあったけど、ここにはいつ頃までいられるのかな」

と聞いた。すると、リアンは申し訳なさそうに、

「『すぐ』って書いてあるってことは、本当にすぐなんだと思います。もしかしたら、もう戦争が始まってしまっているのかもしれません。すぐに戻らないと…」

と言った。里桜は

「できれば、お別れ会とかやりたかったんだけど…。その前に、歓迎会もやってないけどね」

と寂しそうに言った。

「えぇ、すいません。光大朗さんには、くれぐれもよろしくお伝えください」
「わかった。それじゃあ、また地球に来ることがあったら、この事務所にも遊びに来てね」
「はい、ありがとうございます。それでは…」

そういって、リアンは急いで荷物をまとめると、そのままドアから出て行った。
本当に急がしいようだ。

リアンのいる星が、平和になってくれればいいな。



-おしまい-

次へ / 目次へ

※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

葦葉製作所/トップ/小説目次