Written in Japanese(UTF-8)
2021.1.12
Ayacy's HP


/葦葉製作所/トップ/小説目次

神緒のべるず 第9話 遊園地大戦 -2-



前へ / 目次へ
ところでさっきから、楓ちゃんが静かすぎるようだ。
それはおそらく、一番初めに行くことになっている「場所」が影響している。

睦の脳天気な声が響く。
「それじゃあ、最初はジェットコースターから行くわよ〜!」

あらかじめ決まっていたこととはいえ、それを聞いた楓ちゃんの目が大きく見開き、表情が凍り付き、
「いっ、いっ、いっ、イヤぁぁぁぁ〜〜〜〜!」
と叫び声が上がった。
「ジェットコースターはキライ〜〜〜〜! 大キライ〜〜〜〜〜!」

楓ちゃんは、ジェットコースターが大の苦手らしい。
しかし、睦は容赦ない。

「あ〜ら、楓。これも大人になるための修行の一つよ。あきらめて付いてきなさい」

楓の腕をガッチリ掴むと、そのままジェットコースターのある場所まで引きずっていく。

いちおう、ジェットコースターには、「身長120cm以上」という制限があり、比較的小柄な楓ちゃんはそれに期待していたようであったが、

「はいっ、OKね」

というスタッフの無残な一言によって絶望に終わったのだった。

真っ青な顔の楓ちゃんの思いを余所に、楓ちゃんはジェットコースターの先頭に座らされることとなった。隣は睦で、今から手放しをする気まんまんでウキウキしている。楓ちゃんはさっきまで「落ちる〜!しずむ〜!」と意味不明なことを叫んでいたが、睦から「舌をかむわよ」と言われて、黙っている。

すぐ後ろに私と光大朗さんが乗り、その後ろに巴と里桜が乗る。そこから後ろは、他のお客さんだ。

楓ちゃんを後ろから見ていると、プルプル震えながら首筋からだらだらと汗を流している。睦は早く動きなさいよと言わんばかりに、安全バーをバンバン叩いている。

「ビーッ」という大きな音が鳴り、ジェットコースターが動き出した。
車体とレールの間でカタカタという音が鳴り、車体がだんだんと高い位置に導かれていく。

車体が最も高い位置に到着すると、カタカタという音が止み、車体が止まる。
数秒の静寂の後、車体が一気にレールを転がり落ちる。

手を上げて喜ぶ睦。後ろから聞こえる「キャーッ」という喜びの悲鳴。
そして緊張が絶頂となった楓ちゃんが、「うぎゃーーーーっ!」と叫び出す!

「うぎゃーーーーーっ! うぎょーーーーーーっ!
 ちびるーーーーーっ! おしっこ、ちーーびーーるーーーーーっ!」

な、なんて叫び方をするかなぁ。
こりゃ、降りてすぐは、他人のフリをしよう。

その後、楓ちゃんは、最後の最後までひたすら叫び続けていた。
ジェットコースターが止まった後も叫び続けていそうな勢いだったため、睦が口を押さえて黙らせていた。

楓ちゃんはしばらく動けなさそうな様子だったため、睦が担いで外まで運び出すことになった。

他の4人は、他人のフリを決め込む。睦だけは他人のフリができないな。
っていうか、一番初めにジェットコースターへ行きたいと言って強行した責任をとれ。


次へ / 目次へ

※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

葦葉製作所/トップ/小説目次