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2016.10.22
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神緒のべるず 第17話 プリンセスの休日 -1-



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夏休みも終わりかけ。まだまだ世間は暑い。

そんな中、神緒神社の境内で、楓と同い年の女の子が、汗だくになって、仲良く遊んでいる。
その様子を、睦は眺めて

「良いお友達ができた…ってカンジかしら。」

と、つぶやく。
しかし、それを聞いた巴は、慎重に反論する。

「いや、違うね。あれは、振り回されているってところね。」

やっているのは、かけっこである。
境内の端から端までを、どちらが早いか、走りを競争しているはず…なのだが、楓と一緒に走っている女の子は負けそうになると、急に、今まで走っていた方向とは逆方向に走り出し、反対側の塀にたどり着くと一方的に勝ちを宣言する。楓はそれを、半分あきらめたような表情で見送っている。

子供とは言え、どうしようもない同い年の子を相手に理不尽を抗議をしないあたり、楓も大人になったものだなぁと感心しつつ、睦は

「まあ、これも修行の一環ね。こうして楓も大きくなっていくのよ。」

と笑みを浮かべる。

「そう…だけどもね…」

巴は、同意しつつ、なんでこんなことになったんだっけなと、振り返ることにした。



知り合いで探偵業をやっている光大朗のところに、突然の依頼が飛び込んできたのは、一昨日の夜のことだった。

「あなたのところに、内密でお願いしたいお仕事がある」

電話の相手は外務省を名乗っていた。国の機関が直々に電話を掛けてくるとは…と最初のうちは唖然としていたが、話を聞いてみると、どうやらこんな内容だった。

明日、ハロゲルダ国の国王と大臣を、国賓として日本へ迎える。その大臣が、ある護衛を頼みたいと、光大朗を名指しで依頼してきたのだ。詳しい話は大臣に聞いて欲しいとのこと。
で、慌ててスーツ姿に着替えて待っていると、大臣のSPという人物が来て、内密な仕事の依頼があると言ってきたのだ。

ハロゲルダ国王の娘であるエリカ王女も一緒に来日するのだが、王女は気性が荒く、まだまだ一国の王女としての振るまいができない。
そのため、日常的にハロゲルダ国では王女の影武者を立てて、そちらを対外的に王女として振る舞わせている。本物の王女がもう少し成長し、おとなしくなったら、本物に表舞台に立ってもらおうという算段だ。

今回の訪問にあたり、影武者の王女も来日する一方、本物のエリカ王女も来日することになった。これはエリカ王女のワガママによるものなのだが、娘が可愛くて仕方がない国王は、それを許可してしまったのだそうだ。

そこで、本物のエリカ王女の護衛を、光大朗に依頼したいのだという。
なぜ自分なんかのところに?という光大朗の当然の疑問に対し、大臣のSPは、あなたの実績がハロゲルダ国内で高く評価されているのだから、とのこと。

そう言われて喜ばずにはいられない光大朗は、ホイホイと仕事を引き受けてしまったというわけだ。

翌日の昼。ハロゲルダ国からの政府専用機が到着し、ハロゲルダ国の国王と大臣と影武者王女と本物エリカ王女が日本の地に降り立った。
本物のエリカ王女は、誰の目にも触れられないように、そのまま光大朗のところに連れてこられた。

王女はふんぞり返って尊大に

「今日からしばらく、ここにいてやる。日本の文化というものを、わたしにしっかり見せるのじゃ。」

と言ってのける。光大朗は直感的に、これは扱いづらそうだな…と思ったのだが時すでに遅し、エリカ王女のワガママは爆発し、光大朗を存分に困らせた。
そこで、光大朗はひらめいた。

そういえば、エリカ王女は、楓ちゃんと同い年くらいだな、と。さらに、日本の文化と言えば神社だよな、と。
だったら、神緒神社へ連れて行っちゃえ!と。

翌日朝を待って、エリカ王女は神緒神社へ連れてこられた。



「んで、昨夜言っていた、影武者ではない方の王女ってのが、この子なのね」

母屋の玄関先に立つスーツ姿の光大朗と、白いドレス姿のエリカ王女。なぜか光大朗は汗だくである。まだ夏は暑いとはいえ、ここまで汗をかくものだろうか。
それに対して、エリカ王女はあまり汗をかいていない。

睦は値踏みするような目で、光大朗とエリカ王女を交互に見る。
それを受けて、エリカ王女は睦をにらみ返す。なんだコイツは?奇妙な白い服と、赤いスカートみたいのを履いておるな。
睦は一瞬目をそらしてしまう。そのあまりの眼光の鋭さに。

「そう。楓ちゃんの、夏休み最後の自由研究ってことでどうだろう」と光大朗は、そんな提案でお茶を濁そうとしてきた。
「ハァ? この前、海に行ったばかりでしょうが。自由研究は海洋生物(注:海河童)で十分なのよ」と睦。
「わかった。今度、肉をおごってやる」と光大朗。
「よし、乗った!」と睦。

このようにして、神緒神社でエリカ王女の面倒を見ることが決まったのだった。
そうと決まれば、さっそく、睦は楓を呼び出すことにした。

「楓、ちょっといらっしゃい」
「は~い」

今からトテトテと、木の床を叩く軽快な足音が聞こえてきて、私服姿の楓が現れた。
「お姉ちゃん、なに?」
「実はね、かくかくしかじかこういうわけで、この子と遊んでいて欲しいのよ」
「お姉ちゃん…、かくかくしかじかって、何を言っているのか、よくわからないよ…」

光大朗が補足し、「うん、わかった!」と了解する楓。

「それじゃ、あとは頼んだから。明日の夜に迎えに来るんで、あとはよろしく」
そう言い、光大朗はそそくさと退散した。



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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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