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2012.6.17
Ayacy's HP


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神緒のべるず 第14話 そうだ!学校へ行こう -4-



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熱い熱い演説会を経て、あたしはこうして、生徒会室の書記の席に座っている。
新役員の認証式には、やはり校長は来ても理事長は来なかった。まぁ、理事長の顔なんて知らないので、仮に居たとしてもわからなかっただろう。あとで乃々華さんに聞いたら、やっぱり「いなかった」と言っていたので、いなかったみたいだ。

さて、今は、生徒会長席にはさゆりさん、副会長の席には乃々華さんが座り、3人で仲良く昼食中だったりする。

結局、さゆりさんが荒れていたり、他の人にイジワルをしていたりするのは、寂しかったり構ってほしかったりしていたということだろう。
さゆりさんが追い出したという元書記の人も、意見の食い違いがきっかけになって、さゆりさんとギクシャクしてきて、結果的にさゆりさん本人が寂しくなり、苛烈な仕打ちに発展したということなのかもしれない。

それにしても、抱きつき攻撃があんなに効果的だったのは、自分でもビックリした。まぁ、いくつか練っておいた作戦の中の一つではあったのだけれど、もうちょっと苦戦するものと思っていた。
日頃から、姉さんで練習しているおかげだろうか。何事も、日々の練習がものを言うんだなぁ。今度会ったら、また抱きついてやろう。

ところで、どんなことで、さゆりさんと元書記さんの間で意見の食い違いが起きたのか、乃々華さんに聞いてみたことがあったのだが、「よくわからない」ということだった。乃々華さんは副会長という立場なのだから、もっとさゆりさんの力になってあげているべきだと思うのだが、意見を述べあう場では乃々華さんは完全に『さゆりさんのYesマン』(ウーマン?)になりきっちゃっているし、普通の会話をしているときも一歩引いたような立場で『観察して』いることが多いような気がする。

あくまで、あたしの主観だが。

また、放課後の生徒会活動の時間も、ふと居なくなることが多かったりする。まあ、あたしに壊された靴を届けてくれたときも、そんな感じで生徒会室から居なくなったときだったみたいだから、むしろ感謝しないといけないのかもしれないけど。

そんなわけで、さゆりさんをいたわってあげたり、あえて軽く反対意見を述べて絡んであげたりするのは、もっぱらあたしの役割となった。もしかしたら乃々華さんは「自分にはその役割は無理だ」と思って、学校内で適任者を探したけれど、それて見つからなかったので、あたしにその役割を期待したということかもしれないな。




編入から2ヶ月が経過し、あたしは学校にも生徒会にもなじんできた。さゆりさんとも打ち解けている。
今はもうすぐ夏休みという時期で、今日は、先日行われた運動会の反省会と、夏休みに向けての生徒たちへの注意事項を印刷したプリントを作成するための話し合いと、夏休み明けすぐに行われる学院祭に向けた準備と…、とにかく忙しい。
そういえば光大朗さんに、「こんなに長く学校に通っていて大丈夫なのか?」と聞いたことがあった。すると「お前は日本の学校に通ったことがないから良い経験になるだろうし、少なくとも今学期中はこの仕事に携わり続けるだけの代金はもらっているので大丈夫だ」と言われた。望めば延長も可能だそうだ。つまり、ノンビリしているようで、仕事として成立しているということだ。この不況のご時世に、なんとありがたいことか。

まあ、途中でいきなり居なくなるのも不自然だろうし、学校生活がつまらないわけではないから、このままずっと居てもいいんだけど、姉さんは普通に働いているわけだし、あたしが学校でノンビリ暮らしているというのも、なんか不公平かなぁという気がしてならない。それに、もうさゆりさんの心は開かれたようだし、いつまでここに居ていいんだろうというのが不安になってきていたりもする。

まぁ、なるようにしかならないか。
あたしはあんまり気負わずに、学校生活を続けてみることにした。

そういえば、そろそろ、あのことをさゆりさん自身に聞いても大丈夫だろうか?
元書記の人と、一体、何の意見の食い違いがあって、あんなに荒れることになったのか。

せっかく仲良くなれたさゆりさんだけれども、ちょっと前までは、それを聞いてしまうと急に関係が壊れてしまいそうな気がして、なかなか聞けずにいた。しかし、今であれば、壊れたらまた修復すればいいと思えるようになってきている。そろそろ、そういう「一歩踏み込んだ」ことを聞けるようになっても良い時期だろう。
『ケンカするほど仲がよい』みたいな?
そう思い、今日の生徒会活動が終わるのを見計らって、さゆりさんに聞いてみることにした。




「へ? 聞きたいこと?」

帰り途中、校門にさしかかったあたりで、あたしはさゆりさんに聞いてみることにした。
というか、あまりにも思い詰めたような顔をしているあたしを心配して、「気になることがあるなら言ってみなさいよ」と、さゆりさんに逆に聞かれてしまったわけだが。

「うん、あたしの前任の書記の人って、いたんでしょ? どうして、辞めることになっちゃったのかな…って、思ったの」

あたしは「意見の食い違いがあった」ということは知らなかったことにして、どうして辞めたのかを遠回しに聞いてみることにした。

「それを聞いてどうするつもり? もし変な理由だったら、里桜は私のこと、軽蔑する?」

さゆりさんはおそるおそる聞いてくる。最近よく見せる、ちょっと寂しそうな表情である。あたしは「そんなことない」と首を横に振り、両肩に両手を乗せて

「あたし、どんなことでも相談に乗るって言ったよ。さゆりのこと、全部聞いておきたい」

と言った。さゆりさんは「うん、ありがとう」と言うと、ちょっと間を置いてから話し出した。

「私、この学校の『理事長』って人に会ってみようと思ったの。知ってる? 理事長って?」

理事長って言うと、あれか。乃々華さんが言っていたっけ。誰もその姿を見たことがないとかいう…。一時は「校長が兼ねているんじゃないか?」と思ったこともあった。そういう学校もあるみたいだし。
ただ、理事長室と校長室は別々に設置されているみたいだし、学校のパンフレットにも別々の役職として載っていたし、それはどうやらなさそうである。

たしかに気になる、が、別段、会ってみようと思うこともないのだが…。
あたしは何故、さゆりさんがそんなにも理事長に会いたがっているのか、聞いてみることにする。

「それはね…。ちょっと恥ずかしいんだけど…、聞いてくれるかな。
 私の育ての親って、本当の親じゃないんだ。養子として引き取られて育てられたの。軽蔑する?」

なんと。それは新事実だ。再び見せる、さゆりさんの寂しげな表情。でも、だからといってそれで軽蔑するようなことはありえない。あたしは「続けて」と先を促す。

「うん、それでね。中学の頃に、自分の出生について知りたくて、色々調べてみたんだけどね。
 どうも、私の本当のお母さんは、この学校の理事長をやっている人らしいことがわかったの。シングルマザーだったんだけど、色々あって私のことを育てられなくなって、今の家に引き取ってもらった…ってことみたいなんだけど…」

なるほど。中学生の頃となると、色々と多感になる時期だもんな。自分の出生について気になるのも無理はない。
あたしも生みの親に育てられたわけではないので、そういう気持ちはよくわかる。

「それであたし、気になっちゃって。だから高校はこの学院の高等部を受験して、そして理事長に一番近づける立場…生徒会長まで登り詰めたの。それで理事長に会おうとしたんだけど…不在なことが多くてなかなか会わせてもらえなくて…」

さゆりさんはちょっと涙ぐむ。そして訪れる、長い沈黙。間が開いてしまったので、あたしは「無理なら言わなくて良いんだよ」とやさしく言ってあげた。
するとさゆりさんは「ううん、言いたいの。言わせて」と言い、先を続けた。

「私、理事長が居そうな時を見計らって、ドアを蹴破ってでも会いに行こうと思ったの。ふふっ……、まるで、あのときの貴女みたいね。あの部屋、理事長が居ても取り次ぎの人が会わせてくれないから、強引に。
 で、あのときは乃々華は居なかったから、あの子…、ああ、前の書記の子と一緒に。
 でも、あの子ったら反対したの。そんな乱暴なことをするべきじゃない、ってね。でも、私はどうしても会いたかった。
 その後、私がこのことを口に出すたびに、話をそらしたり、大声で怒ったりして気をそらそうとするの。
 それでケンカみたいになっちゃって…」

なるほど。それから、さゆりさんは荒れるようになっちゃったわけか。

「その後、乃々華と一緒に会いに行こうとも思ったんだけど、乃々華ってあんな感じの子でしょ? さらりと会話をそらしちゃうし、
 一人で会いに行こうとしても鍵がかかっていたり、理事長室の取り次ぎの人に拒否されたりするし…」

うん、わかった。
あたしは意を決して、さゆりさんに言った。

「よしっ! これから、その理事長に会いに行こう!」


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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