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2021.1.12
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神緒のべるず 第11話 シンデレラ・ドリーム -1-



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ここは小さな王国にある小さな一軒家。
三姉妹の末っ子である私、睦(むつみ)は、この家で2人の姉にイジめられておりました。

一番背の小さい、イジワルな顔をしたのが、長女の楓(かえで)ねえさん。
楓ねえさんは、今日も私をいびります。

「あら睦。お掃除は終わったのかしら?」
「ハ、ハイ…。楓ねえさん。さっき終わったところ…」
「でも、これは何かしら…?」

そういうと、楓ねえさんは、部屋の角のホコリを指でこすり取り、私の目の前で「ふーっ」と吹きます。
ホコリが私の目の前を舞いました。

「睦!こういうのはね、四角い部屋を丸く掃くって言ってね、お掃除ができていない証拠なのよ!」

バシッ!
楓ねえさんは私のことを平手打ちで殴りました。

「ごっ、ごめんなさい…。楓ねえさん」
「ふんっ!図体ばっかりデカくても、役に立たないわねっ! ほらっ、行くわよ! 巴っ!」

楓ねえさんの後ろについて歩いているのは、次女の巴(ともえ)ねえさん。
巴ねえさんは、私の方を一瞥すると、そのまま黙って楓ねえさんの後ろについて行ってしまいました。

楓ねえさんと巴ねえさんがドアをバタンと強く閉めて居なくなると、私は壁をガスガス蹴りまくります。

「ったく! 私よりもチビのクセにっ! 何がねえさんよっ!
 それに、ねえさんだって、一人じゃ掃除もできないってこと、知っているんだからっ!」

そうつぶやきながら、私は壁をガスガス蹴ります。
すると、壁の向こうから楓ねえさんが「うるさいッ! 静かにしろッ!」と叫びました。

怒られてしまいました…。私は壁を蹴るのをやめました。

「いつか…。いつか私だって! シンデレラみたいに王子様が迎えに来てくれて!
 楓ねえさんや巴ねえさんのことを見返してやるんだからっ!」

現実には、そんなことはなかなか起きるわけもありません。
しかし現実はそうであるとわかっていても、私は夢を見ることしかできませんでした。

私は、パパの形見であるマシンガンを、分解して掃除して、また組み立てながら、語りかけます。
「ねぇ、私って、どうしたらいいんだろう…」
今は、このマシンガンだけが、私の家族です。



でも、奇跡はいつか起きるものです。
ある日、王様よりおふれがありました。

『もうそろそろ結婚適齢期になる、我が息子である王子の結婚相手を決めるため、
 お城にてパーティーを行う。王国内の全ての女性に、参加資格を認める』

それを聞いて、王国中の女性が喜びます。
もちろん、楓ねえさんと巴ねえさんも、例外ではありません。

「王子様って、すっごくイケメンなのよねっ! かえで、小柄だけど、チャレンジしちゃうんだからっ!」

楓ねえさんが小柄というコンプレックスにも負けずに張り切っています。

「あ、あたしだって、負けませんよ。やっぱり、王子様のお妃になる女性には、知性が必要ですもの」

巴ねえさんも自身たっぷりに張り切っています。
そして2人は私の方を見ます。私は、

「わ、私にも…、参加資格はあるのよね…」

と小声でつぶやきますが…、

「ハんっ!? 睦、アンタ、自分が何様だと思っているのかしら? アンタは汚らしく、床を磨いて暖炉を掃除して、灰でもかぶっていればいいのよ。
 ほーほっほっほっほ!」

と、楓ねえさんに一蹴されてしまいました。
楓ねえさんは無言で黙っている巴ねえさんを睨みつけます。
すると、巴ねえさんも、楓ねえさんに合わせて「ほーほっほっほっほ!」とたどたどしく笑いました。

私には参加資格がないのでしょうか…? そうかもしれません。
だって、お城のパーティーに参加するためには、綺麗なドレスを着ていかなければならないのです。楓ねえさんと巴ねえさんは綺麗なドレスを持っていても、私は持っていないんですから。
私には参加資格がないんです。


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※このサイトは、着ぐるみ小説サイト「神緒のべるず」および、葦葉製作所頒布の小説「神緒のべるず 第1巻」、「神緒のべるず 第2巻(PDF版)」、Yuzu R.さんの再録本掲載の小説をWeb用に再編集したものとなります。一部は書き下ろしです。


関連サイト: 巫女ブラスター2 巫女ブラスター

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